好きだから 266

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 沢村は長身だが、姿勢がいいので、足の痺れを我慢していることなどは今のところ隠しおおせている。
「佐々木先生」
 佐々木が棗や茶杓をしまいかけた頃、沢村が声をかけた。
「周平さんとお付き合いさせて頂いております。後々婿に入ることもお許し願えればと存じます」
 まるで道具の作を尋ねたのと同じ口調で言うのに、佐々木はしばし言葉を理解しそびれた。
 沈黙があった。
 佐々木はようやく沢村が何を口走ったかを反芻して固まった。
 何を、こないなとこで、こいつは爆弾発言しとんね!
「周平には昔からあちらこちらから縁談がありました」
 今にもそれこそ淑子の爆弾が落ちるぞ、と思った佐々木は、落ち着いた淑子の言葉にさらに固まった。
「殿方からのお話もいくつかございました」
 へ? と佐々木は思わず淑子を振り返った。
 縁談の話があったくらいは知っていたが、母親のところで止まっていたし、そんな話は聞いたこともない。
「周平、手ぇが止まってます!」
 しかし思いがけなさすぎる話に佐々木は手にする道具を間違えそうになる。
「中には既に奥様がいてる方など、不埒な! もちろん、塩をまいて追い払いました。とにかく、縁談はあってもええご縁なんかあらしまへん」
 淑子は膝に置いた両手をきつく握りしめる。
「それでもこの子が友香さんと結婚する言うた時は、肩の荷を下ろしたものです。ところが、三年足らずで嫁に逃げられ、ほんまにふがいないことこの上ない!」
 古傷に塩を塗りたくってくれる淑子が、一体何を言い出すのやらと佐々木は生きた心地がしない。
「ひとまず、様子見といたしまひょ。許すかどうかはいずれの時にか申し渡します」
「ありがとうございます」
 沢村は真面目な顔で言った。

 


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