好きだから 39

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 実際のところ、親衛隊を自認する男たちが出入りするようになってからは努々周平がニューハーフだのオカマだのの仲間になったらどうしようなどと一時は真剣に心配した淑子ではあるが、幸い周平の気性は女女したところはなく、大学院を出て先輩の会社に就職をしてから、学生時代から付き合っていた友香と結婚すると言ってきた時はほっと胸を撫でおろしたものだった。
 ところが、周平と友香の結婚生活は長くは続かず、傍目にもがっくりしている周平が不憫ではあったものの、性格上厳しく奮起を促すくらいしかできず、あとは仏壇を開けて、周平にええご縁がありますようにと手を合わせる毎日だった。
 佐々木家の跡取り云々など淑子の中ではどうでもよかった。
 願っているのは遅くにできた一人息子の幸せだけだ。
 ただ最近、淑子にはひそかな溜息をつかせる一抹の憂いがあった。
「袱紗捌きが違います!」
 淑子に叱咤されて佐々木ははっと手元をみた。
「あ、ああ、すみません、濃茶でしたね」
 佐々木は慌てて袱紗捌きをやり直した。
「何をぼおっとしているのです。綾小路さんの展示会での初釜は年明け早々なんですよ」
 そうだった。
 こうして居残り稽古をつけてもらっているのも、時間がある時に稽古をしないと次に時間が取れるのがいつになるかわからないからである。
 綾小路のプロジェクトには前回同様茶の湯が組み込まれており、佐々木が率いて成功させなくてはならないのだ。
「すみません」
 母親に言われるまでもなく、佐々木は自分でも呆れていた。
 確かに忙しさもあっただろうが、いくら何でもここ数日ぼんやりし過ぎだった。
 沢村と会うのは三週間ぶりで、会いたかったし、会っている時は仕事も何かと雑多な外野のことも一切吹っ飛んでしまっていた。
 だが、朝になって沢村に見送られて部屋を出る時には、吹っ飛んでいた雑多なものが一斉に舞い戻った。
 無論、沢村は例のゴシップ記事のことが気になってそういう会い方になったのかも知れないが、問題は沢村がその一挙手一投足がマスコミや巷の関心をひかないではいられない存在だということだ。
 そんなことはもう一年前、トモが沢村智弘だとわかった時から考えていたはずだった。
 うーーーーん、ラビリンス、やな。
 今は俺がラビリンス入り込んでるんかもな……。


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