好きだから 45

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 無理やり見せられた沢村はボソリと言った。
「いろんな人種が集まってて、面白そうですね」
 良太も微笑んだ。
「だしょー? 沢村もどっか混じってるやろ? そのガタイ、日本人とは思われへん」
「俺は生粋の日本人だ」
「そうか? ルーツ調べてみたらおもろいで、きっと」
 ひとしきり自分の半生を語りつくし、ガハハと笑う八木沼は屈託がない。
 一方、家族である父親に対してともすれば訴訟すら辞さない構えの沢村の心の内を、良太は推し量った。
 八木沼の話も時折上の空な沢村が考えているのはおそらく佐々木のことだろう。
「しばらく会わない方がいいだろうって、佐々木さん」
 収録が終わった後、沢村がぼそりと良太に言った。
 物理的には会えそうなのに状況的に会えない。
 やっぱ、きついよな。
 会えない理由が物理的な方がまだマシかも知れない。
 良太は眉を潜めて酒を口にする沢村を見やる。
 あれは春だったな。
 沢村は佐々木とこの美術館を訪れた時のことを思い出していた。
 樹木はまだ若葉をつけて彼らを出迎えた。
 佐々木が好きな画家の展覧会があるというので、沢村もついていったのだ。
 その日の絵は難解なものではなく、沢村でも素直に描いてあるものをそのまま観ることができた。
 特に佐々木がきれいだとしばらく佇んでいた絵には、若い女性が描かれて確かに綺麗な絵だったが、絵を美しいと魅入っている佐々木そのものが美しいと、密かに溜息をついた。
 そんな時、いつも思う。
 この人を離したくはないと。


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