好きだから 48

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 携帯を握りしめてしばしぼんやりしている佐々木に気づいたが、ちょうど帰ろうとしていた直子はどう声をかけていいかわからなかった。
「沢村っちは変なオッサンにおっかけられてるし、佐々木ちゃんは今までになく忙しくて、ほんと体壊すんじゃないかって心配だし、二人ともまともに話もできないなんて、もう、どうにかならないのかな!」
 昨日も佐々木に付き合って、八時頃まで手伝えることは手伝っていたのだが、オフィスを出てから直子がどこにもぶつけようもない心のうちを電話をしたのは良太だった。
「そっか。小田事務所の遠野さんにも確認したけど、何かまだしつこく嗅ぎまわってるらしいんだよな。どうもアスカさんの方まで手を伸ばしてきたみたいで、まあ、それってこっちの思惑通りと言えばそうなんだけどね」
「そっか。もちょっとの辛抱って感じ?」
「うん、まあ、そうだね」
 良太の答えも曖昧にしかならないのは仕方ないと直子もわかっていた。
 だが、直子としては佐々木に何もしてやれないのがもどかしくて仕方なかったのだ。
「今日は、ちゃんと切り上げて帰って寝ること!」
 直子の就業時間も既に過ぎていたが、佐々木のために夕食の出前を取り、お茶も用意をしてコートを羽織ってから佐々木に言い渡した。
 今夜は週一回のお茶の稽古日なのである。
「わかった? 絶対オフィスでとかダメだからね、佐々木ちゃん!」
 ビタミンサプリメント、栄養ドリンク、ゼリー類も佐々木のために用意はしてあるが、そんなものよりもしっかり睡眠をとってほしい、というのが直子の想いなのだ。
 しかし手を抜くということを良しとしない佐々木は、とことんやってしまう質だ。
 プラグイン経由の仕事は浩輔がアシスタントとしてついてくれて絵コンテの制作などはまかせているのだが、それでもここのところの仕事量はジャストエージェンシーにいた頃より遥かに超えている。
 明日は撮影が入っているため、何とか今日中にめどをつけておかなくてはならなかった。
 出前のうな重は松竹梅の松だ。
 直子は上等の弁当を取ってくれたようだが、半分ほど食べ終えたところで佐々木はまた仕事にとりかかった。


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