好きだから 49

back  next  top  Novels


 佐々木の携帯が鳴ったのは、この辺りでキリをつけるか、と思っていた矢先のことだった。
 十時を回っている。
 まさか沢村だろうかなどと思って携帯を見ると、直子である。
「直ちゃん、どないした?」
「佐々木ちゃん、大変なの! 先生が!」
 佐々木は思わず立ち上がった。
「かあさんが?」
「とにかく、佐々木ちゃん、すぐ来て!」
 倒れたとか?
 心筋梗塞、脳梗塞、不吉な病名が心中に去来する。
 これまで病気一つしてこなかった母親だが、古希を迎えたのだ、何があってもおかしくはない。
 佐々木は取るものとりあえずオフィスを飛び出すと、エンジンをかけるのももどかしく車を家へと走らせた。
 門を開け、家の駐車スペースに車を滑り込ませると、佐々木は表玄関へと走った。
「かあさん!」
 玄関を開けた佐々木の目の前には淑子を支えるように直子が玄関に座っていた。
「周平、何ですか、騒々しい」
 すかさず小言を言われて佐々木は、「え、何やね……」心筋梗塞などではないらしいと脱力した。
 淑子は三和土に足を下して床に座り込み右足をさすっている。
「先生、さっき転んで、足を怪我されたみたいで」
 直子が言った。
「え? 転んだ?」
「花器から枝が落ちていたから拾おうとして、足、滑らせただけです」


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ