好きだから 50

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 眉を潜めて足をさすっているようすから、かなり痛いらしいと佐々木にも察しが付く。
「もしかして骨折とかだと大変だし、やっぱり病院にと思って救急車を呼ぼうとしたんだけど、先生、大丈夫だとかおっしゃるし」
「救急車やなんて大げさな! 大丈夫です。時間がたてば……」
 ほんとに骨折していたとしてもこの頑固な母親を救急車に乗せるのは至難の業だ。
 かといって、実際骨折していたらまずいだろうと佐々木はしばし思案すると、思い出したように携帯で検索をかけ、一つの電話番号を見つけると、そのままコールした。
「あ、夜分にすみません、一番町の佐々木ですが、久乃先生いらっしゃいますか? え、ご旅行ですか……」
 滅多に病院にかかることのない佐々木親子だが、佐々木の幼い頃からのかかりつけと言えばこの手塚医院しか頭に思い浮かばなかった。
 内科外科の個人病院で院長の手塚久乃は夫とは早くに離婚し、看護師と二人だけで医院を切り盛りして子供を育てたという境遇で、淑子と同年配ということもあって、親しいというかお互いああいえばこういうの間柄だった。
 たまに緊急なら時間外でも診てもくれたので、もしかしてと思って佐々木は電話をしてみたのだが、当の久乃がいないのでは仕方がない、やはりどこかの救急外来に連れていくしかないか、と佐々木が諦めかけた時、「おい、ひょっとして周平?」という声が電話の向こうから聞こえてきた。
「え、そうですが」
「俺だよ、みのり、手塚稔」
「稔さん? あれ、今日本にいてるん?」
「いてるも何も、俺、この春からここのセンセ」
「え、ほんま?」
 手塚稔は久乃の息子で佐々木より二つ上、確かどこかの病院の外科医だったが国境なき医師団に同行してずっと日本を離れていたはずだ。


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