好きだから 55

back  next  top  Novels


 水波の場合はそのイメージからどちらかというと、きつさ、スリリング、が目いっぱい画面に押し出されていた感があるが、むしろ本谷の方がスカッとした爽快さというところではポイントが高いように思われた。
 撮影は夕方まで続き、またぞろ疲れが上乗せされたところで、直接手塚医院に淑子を迎えに行くと、夕食を済ませた淑子は、佐々木の顔を見るなり、遅いと文句を言った。
 オフィスの鍵は直子も持っているし、家の茶室の片付けは直子がやってくれるというので、鍵を直子の机の上に置いて出かけた。
 結局、オフィスのことだけにとどまらず、家のことまで直子に頼らざるを得ないことが、直子に対して申し訳なく、また自分が情けなかった。
 例え仕事が忙しかったにせよ、古希を超えた淑子の今後のことも考えていかなければならないのだと、佐々木は改めて思う。
 佐々木はボルボの後部座席に淑子を乗せ、テールゲートを開けてたたんだ車椅子を積み込むと、ようやく家へとハンドルを切った。
 今日から泊り込みで淑子の面倒をみてくれるという石川は小回りのきく小さめの軽で佐々木の車の後に続いている。
「茶室はちゃんと片付けはったんですね?」
 淑子は気になっていたらしく、車が走り出すなり聞いてきた。
「あ、ええ、直ちゃんも手伝うてくれたし」
 片付けたのでご心配なく、とlinesが来ていた。
「直子さんは一生懸命なだけやのうて、何でも卒なくこなさはるし、明るいし、できたお嬢さんやないの。周平とも仲ええみたいやけど、直子さんとはどないですの?」
 佐々木は仕事が一段落したら、また直子に何かおごってやらないとな、などと考えていたので、淑子が一瞬何を言っているのか頭が回らなかった。
「直ちゃんと? え?」
 ややあって、ようやく、ああ、そういうことかと理解した。
 確かに二人でいるところを見たら大抵、カップルだと思われるのだ、淑子がそんなことを考えても無理はない。
「ああ、直ちゃんとは、そういう意味では付き合うてるわけやないし、仲はええけどむしろ長い付き合いで兄妹みたいな感覚やから、お互いに。………すみません」


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ