好きだから 56

back  next  top  Novels


「そうですの」
 佐々木はバックミラーで後ろの淑子を見たが、それ以上は何も言わず、じっと目を閉じていた。
 捻挫で一晩とはいえ、淑子には初めての入院騒ぎだ、自分の年のこともあるし、いろいろと考えてしまったのかもしれない。
 毎日仏壇の前で、周平にええご縁がと手を合わせている淑子には申し訳ないが、残念ながら今のところ紹介できるような相手はいないのだ。
 紹介できる相手、か。
 ふっとそんな時に頭に浮かんだのは沢村の顔だった。
 何、考えてるんや、俺は。
 佐々木家が近づくと生垣から見える庭というより雑木林も晩秋の色を深め、そろそろ庭掃除を頼まなくてはと落ち葉だらけになっているのを想像して佐々木はげんなりしながら、これも古びた門構えの前で一旦車を停めて、携帯を操作して門を開ける。
 前はギシギシと軋む音がひどく、加えて重かった門だけでもと、お茶のお弟子さんなど、車で来る人もいるので最近自動にした。
 玄関左側は一応数台は車が置けるようになっている。
 佐々木は大学を卒業してジャストエージェンシーに入社した年に、母屋の玄関を通り過ぎた向こう側に、自分用のガレージを作った。
 ボルボは大学時代に中古で購入したのだが、結婚した年に新車に乗り換えた。
それが今のステーションワゴンである。
 それも日に日に古びていくものだが愛着もあるし、まだまだ乗るつもりだ。


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ