好きだから 61

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 つらつら考えながら仕事をしていたので、ついキーボードを打ち間違えたりして、常日頃の直子ではなかった。
 さらに、直子を固まらせたのは、いきなりドアが開いて男が入ってきたからだ。
「よう、なかなかいいオフィスじゃねぇか。暇なんで来ちまった」
 声は確かにあの男だった。
 しかし人相風体が、先日の白衣の熊五郎とは似ても似つかない。
「あれ、稔さん、えらくさっぱりしたやないですか」
「おう、いい加減うっとおしかったんで、さっき床屋寄ってきた。何せ、今世紀始まって以来の美人との飲みだからなぁ」
 確かにごわついていた硬い黒髪は小ざっぱりと切り揃えられ、前髪は緩やかにわけられている。
 そして何より、さっぱりきっぱり髭がなくなって、熊五郎どころか、藤堂と河崎を足して二で割ったような甘めと渋めがないまぜになったイケオジができあがっているではないか。
「おおっ! 彼女もバッチリ決めまくって、飲み、一緒する?」
 そこで直子に気づいた手塚は、嬉しそうに声をかけた。
「直ちゃん今日、ライブなんや、残念やな」
「おお、そっか、ヘビメタとか?」
 目の前でニヤつく男は直子にしてみれば、限りなく軽佻浮薄なとても医師とは思えないオヤジだった。
 ハードロックとか言わないだけマシ?
 ただ、心の中でそうやってこきおろしてみても、手塚がただガサツで俺様で自己中な植山などとは違って、佐々木にちらっと聞いたところによると、国境なき医師団に参加して海外にいたという、経験に裏打ちされたワイルドで頑丈な体躯といい、しかも佐々木より背が高いというポイントは大きい。


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