好きだから 63

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 藍屋は新宿通りから二本ほど入った通り沿いにあるオフィスビルの一階にある居酒屋だ。
 この辺りはマンションが多く立ち並び、夜ともなると人通りも少ない静かな佇まいだ。
全国から集めた日本酒が置いてあり、メニューもしっかりした洋風でどちらかというと大人設定の店だから、騒いでいる学生などは見当たらない。
 テーブルもパーテーションで区切られており、居酒屋といっても落ち着いて飲むには居心地がいい。
「んじゃ、ま、再会を祝して!」
 生ビールのジョッキを合わせると、稔は豪快に半分ほどを飲み干した。
 ポカリなどのペットボトルがジョッキに代わっただけで、余りにも昔と変わらない稔の印象に、佐々木は思わず笑った。
「何だよ」
「いや、稔さん、ほんま、ガキ大将のまんま、や思て」
「おいおい、これでも世界中のヤバいとこあちこち渡り歩いて、生きるか死ぬかみてぇな感染症にかかったりよ、それなりに艱難辛苦をなめたりしてきたんだぜ?」
 きたきた、とイベリコ豚のローストポークから海鮮サラダからサーモンのカルパッチョから稔はたったか二つの皿に分けると、ガツガツと平らげる。
「それはわかるけどな~」
「お前こそ、個人オフィス持つほどになったってのに、見た目はあんましかわらねーじゃねーか。ほんとに結婚なんかしとったのか?」
「や、俺、年明けの一月でもう三十四やから、稔さんこそ、何で奥さんに逃げられたん?」
 そこでビールを飲み干した稔は、スタッフを呼んでボトルワインを頼む。
「お前、逃げられたの前提かよ」
「あれ、違ごた?」

 


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