好きだから 74

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 イチからとはいっても、北欧あたりを走らせたカットはそのまま使い、水波とアスカを使ったドラマに沿った形でのカットを大澤とアスカで撮り直すということになる。
 水波はしゃべらせるとくどくなるので、ストップモーション風にカットを切ってシャープな雰囲気に仕上げていたのだが、大澤とアスカであれば少しストーリー性を加味したものにする予定だ。
「え、また、あたし、雪の妖精?」
 制作を進めている広告代理店サンホールディングスの自社ビルにある一室で、スポンサー側の担当者、代理店と制作スタッフ、それに出演する俳優大澤流とマネージャーの浜田、中川アスカとマネージャーの秋山、佐々木とが打ち合わせに臨んでいた。
「そうですね~、こないだは雪女でしたけど、今回は雪の女王って感じで」
最近はスポンサーや代理店と会う時などはおとなしめにスーツなどで赴くようになったアスカが不服というわけでもなく言うのに、佐々木は説明を加えた。
「あら、やっぱり雪女だったんじゃない」
 おとなしめとはいえ、シンプルな黒のパンツスーツはシルクで、明るい色の髪を今日はおろし、後ろをバレッタでとめているのが、細い鼻がすっと伸びてくっきりしたヨーロッパ系の相貌によく合っていると、佐々木は思う。
「雪の女王は少し前に人気の映画もあったことですしね。ちょっとしたストーリー仕立てで、下手をするとダサくなりがちですが、大澤さんアスカさんともに表情が豊かなので、シメのカットに全てがかかってます」
「へえ、面白そうじゃないですか」
 昔はもっと横柄な態度が大澤流の代名詞のようだったが、それなりに経験を積んでまともな口を聞くようになったらしい。
「中川さんと佐々木さんは仕事でご一緒されていたようだし、スムースに進行できるんじゃないですか?」
 サンホールディングスの担当である増岡はこの業界でこれでやっていけてるのが不思議なくらい押しの弱そうな丸い顔に満面の笑みを浮かべた。
 ブライトンタイヤの広報部長に娘が水波のファンだからと強硬に粘られ、押しの弱さが裏目に出て、挙句、こういう事態になったらしい。

 


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