好きだから 88

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「はい、オフィスササキでございます……ああ、手塚センセ。少々お待ちください」
 相手が稔とわかると直子のテンションが下がる。
「はい、稔さん、何か?」
 診察室からなので、いつも稔はオフィスにかけてくる。
 大抵は暇なのでどうということもない話だとか、また飲みの誘いくらいだ。
 直子はついつい聞き耳を立てて、キーボードの手が止まっている。
 最近、沢村からの連絡はないのに、稔からの電話がちょくちょくかかってくるのだ。
 むっとした顔をしているのは自分でもわかっている。
 沢村はおそらく佐々木にかけるとしても携帯だろうし、それに、やはりあの件が片付くまでは 佐々木に迷惑をかけるからと、電話も我慢しているらしい、とは良太からも聞いている。
 だから仕方がないのだろうけど、忙しいというのに佐々木が稔と何やら親し気なのが、直子としては面白くないのだ。
「でも、先生、足、だいぶ良くなってきたみたいでよかった。まだ正座とかはできないから、お稽古の時もまだ椅子だけど」
 佐々木の電話が切れると、直子は声高に話しかけた。
「ああ、ほんま、直ちゃんのおかげやな」
 飲みに行った夜、佐々木を襲いかけた稔は、淑子を連れて病院を訪れても、悪びれもせず今まで通り佐々木に接している。
 自分の行動に対して揺るぎない信念があるんだろう。
 あの人はほんま、おたおたするとかないんやな。
 俺みたいに。
「せや、食事、行きたいとこ決まった?」
「お食事は、佐々木ちゃんの仕事が落ち着いてからでいいよ。それよりさ、気分転換、してきたら? いつものお散歩、はちょと寒いか。うーん、何か、音楽を聴くとか」
「ハードロックとか、たまにええかもな」


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