好きだから 89

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 佐々木はつとめて笑う。
「もう、真剣に言ってんのに。それにせめてヘビメタと言って。あ、絵の展覧会とか、佐々木ちゃん、行きたいのあるって言ってなかった?」
「ああ、そやった、ボッティチェリ展、上野でやってるんやったな」
 フィレンツェには何度行っても、ボッティチェリの新しい発見がある。
 ボッティチェリは佐々木の絵に対する憧憬の原点でもあった。
「ど素人はルネサンスの巨匠を語るのにレオナルドとミケランジェロ、ラファエロとかしか知らない、ルネサンスと言ったらボッティチェリに決まってる……って、前、怒ってたじゃない」
 苦笑して佐々木はパソコンの電源を落とすと、すくと立ち上がった。
「トロトロやってても拉致があかんし、想いたったらや。まだ間に合うやろ。ちょっと上野行ってくるわ」
「うん、今日、外、かなり寒いからあったかくしてって」
「らじゃ!」
 ダウンのロングコートの上にマフラーをぐるぐる巻きにしてから、佐々木は、そうや、と直子を振り返る。
「帰り、『やさか』に寄ってお菓子買ってこか? 明日のお茶までくらいもつやろし、稽古にも使える」
「わ、研二さんとこ? 楽しみ!」
「来年の綾小路さんのイベントで、やさかさんとこのお菓子使おう思てるんや」
「それ、絶対、いけるよ! なんかさ、一見怖そうなのにあったかいっていう、研二さんの人柄がまんま出てるよね、やさかのお菓子って」
「なるほど」


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