好きだから 90

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 二月のスキー合宿で顔を合わせてから、有楽町にある店に何度か寄ったが、研二は佐々木が行くと必ず顔を出してくれた。
 小林千雪の幼馴染だという研二は、口数の少ない、確かに強面だが、実に気配りの優しい男のようだ。
 柔道をやっていたという大柄な体躯からは想像できないような、きれいな和菓子を器用に造る。
 そういえばバツイチ同士ですねなどと、そんな話もしたが、あんな優しい男にもいろいろあるのだろうか。
 つらつら考えながら半蔵門まで歩き、半蔵門線の永田町で銀座線に乗り換えて上野で降りると、佐々木が東京都美術館に着いたのは四時半になろうとしていた。
 永田町から乗り換える赤坂見附までちんたら歩いていたので時間がかかったのだろう。
 何とか入場に間に合ったが、約一時間程しかないと、少し足を速めた。
 中はごった返すほどではないが、結構人が入っている。
 展覧会が始まった頃は、有名な作品展と聞くやにわか芸術ファンとなる日本人の常らしく、結構な賑わいだった。
 混雑が苦手な佐々木は、それをたまたまニュースなどで見て、先送りにしてしまっていた。
 どのみち、『プリマベッラ』や『ヴィーナス誕生』などの大作は来ないし、これもかというような作品を集めたのだろうが、それでも好きな絵はいくつか来ているようだった。
 美術史家らはボッティチェリやレオナルドなどの生涯をああでもないこうでもないと、絵や残っている書から想像をたくましくさせるが、ボッティチェリの人となりを探ろうとして、遠近法を度外視しただの、サヴォナローラに傾倒して人生を終えただの、勝手なことを言いやがってと思う。
 佐々木にとっては絵そのものが全てだ。
 敢えて言葉での説明などどうでもよかった。


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