好きだから 91

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 いずれにせよ、五百年以上も前の話で、それが事実かどうかなど証明することなどできないのだ。
 そういう考え方は友香とも一致していた。
 フィレンツェを二度目に訪れた時は友香と一緒だった。
 もともとボッティチェリが好きだというので話が弾んだのが、付き合うきっかけだった。
 レオナルドなら、ベロッキオの弟子時代に描いたとされる天使の絵が好きだということでも意見が一致した。
 こうしてボッティチェリの作品を観ていると、古い昔のことまで思い出してしまうのだが、以前よりは楽しく思い出せるようになったのは、二月の個展で友香と再会して何のわだかまりもなく話すことができたからだろう。
 けれど、もし沢村と出会っっていなかったら、あんな風に友香と話せたかどうかは疑問だ。
 二、三度一緒に美術館に足を運んだことがあったが、俺は絵のことなどわからないが、とか言いつつも、俺はこっちが好きだ、こっちはイマイチだ、などと沢村の場合はとにかく好きか嫌いかなのだ。
 でもおかしなことに、沢村の好きと嫌いは佐々木の絵に対するそれと大抵同じだった。
 そういえば、先日のパワスポの対談も以前一緒に行った世田谷の美術館だったな、と佐々木は思い出す。
 沢村の佐々木への想いのストレートさはいっそ清々しいものがある。
 だからこそびっくり箱のような沢村の行動に驚かされ困惑されながらも、沢村に対する佐々木の想いはどんどん深みにはまっていったのだ。
 本当はもうあの居心地のいい深みから出ていきたくはなかったのだが。
 はあ、とため息をつくと、目の前の「シモネッタ」がほほ笑んだような気がした。
 麗しのシモネッタ、ボッティチェリが心酔してあちこちの作品でモデルにしていたというこの女性は恋人のジュリアーノ・ディ・メディチと前後して夭折したと伝えられている。
 横顔のラインの美しさには何度見ても心奪われる。

 


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