好きだから 92

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 大作は来てはいないが、モニターで大写しで解説されるコーナーは人だかりだった。
 シモネッタは『プリマベラ』の中でも中央のビーナスのモデルだとされている。
 何となくブライトンのCMでのイメージは出来上がっていたのだが、アスカの雪女だか雪の女王だかは、「プリマベラ」にも登場するフローラの気高くも美しいそのオーラを纏ってもらおうと考えていた。
 降らせるのは花々ではなく雪だ。
 にしても、このシモネッタの鼻梁のライン、アスカさんそのものやなあ。
 女性が多い閲覧客の後ろに立っても頭一つ高い佐々木は、その流れをやり過ごしながら、その場に佇んで「シモネッタ」を見つめていた。
「ほんとに溜息が出るくらい、きれいですわね」
 ふと右隣に目をやると、先ほどから佐々木と同じように、閲覧者の流れに逆らって絵を見つめている年配の女性がいた。
「私がルパンだったら、この絵を盗んで自分の部屋に連れていくのに」
自分に話しかけているのかと、彼女を見た佐々木を見上げて、女性はお茶目に笑った。
「それは俺も同意ですね」
 佐々木も微笑み返した。
 すると女性は、あら、と右手を品よく口元に充てる仕草をして、一瞬佐々木を凝視した。
 女性のそういった反応に佐々木は覚えがあるのだが、直子によるとそういう時は佐々木の美しさに絶句しているか、自分と比べてしまって恥ずかしくすら思っているのだ、という。
 そんなことを自慢するつもりもさらさらないが、よく人に凝視されることには慣れていたし、ついでにそういう時は大抵男か女か判別しようとしているのだ。
「失礼ですけど、モデルさんとかじゃございませんの?」
「いえ、そんな御大層なものでは」

 


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