好きだから 93

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「あら、あんまりお綺麗だから。関西の方ですの? 私も、神戸出身なんですのよ」
 佐々木のアクセントに気づいたのだろう、女性は人懐こそうに語りかけてくる。
「ああ、母が京都なので」
 四十代くらいだろうか、ショートカットがよく似合う、はっきりとした顔立ちの美人で、雰囲気や服装からして富裕層だろうと思われた。
「まあ、私も中学高校と京都の学校に行ってましたのよ。母の母校があって、あの頃はよかったわ」
 何だか無邪気な人だと、佐々木は苦笑する。
「でも久しぶりにボッティチェリの絵を拝見できて、やっぱりいいわね。若い頃、ウフィッツィで見て夢中になって、一か月くらい、フィレンツェにいて通ったわ」
「そら羨ましい。俺も初めて本物を見た時は、いっそ住みたいくらい思うたもんですが」
 ボッティチェリの話からレオナルドやフィリッポ・リッピなどの話になると、佐々木もつられてたった今会った相手だということも忘れて話が弾んでしまう。
「そういえば、あなたも絵をお描きになりますの?」
「たまに。今は映像関係の仕事をしてるので、なかなか時間が。あなたこそ、絵描かれるんですか?」
「いえいえ、子供の頃はお絵描き好きでしたのよ。でも、今は観る専門ですけど」
 その時、背後から、「佐々木先輩!」という声がして、何人かの男女がわらわらと近づいてきた。
「やっぱり! 最近、院の方に顔出してくれないし、去年の学祭も来てくれなかった!」
 佐々木の後輩にあたる芸大の院の学生たちだった。
「ああ、悪い、ここんとこ仕事が詰まってしもて」
「わかってますって! 佐々木さん独立してからの活躍、すんげーみたいですね」
「前に雑誌にも出てたし、すんごくきれいんなったし被写体としても活躍とか?」
「ないない!」


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