一番町にあるここオフィスササキでは、唯一の社員である池山直子が、朝から既に三〇度を超えてぐんぐんあがる気温に逆らって一気にエアコンの温度を下げた。
「おはよ………うわ、いきなり冷蔵庫?」
オフィスのクリエイターであり、代表でもある佐々木周平は、ドアを開けるなり声をあげた。
「おはよう、佐々木ちゃん。あと少しだけ我慢して。耐えられない暑さだと思わない?」
自分のワークスペースに落ち着いた直子は、パソコンを立ち上げながら言った。
「まあ、今年一番の暑さみたないこというてたけどな、テレビの天気予報」
佐々木は愛用のマシンの前に腰を降ろしたが、上はTシャツ一枚だから、思わずむき出しの腕を両手でさする。
「毎日今年一番の暑さとか言ってる気がする。でも、佐々木ちゃん、最近テレビ見るようになったんだね、えらーい!」
佐々木はハハハと空笑いする。
それこそえらい言われようだ。
何しろ佐々木周平と言えば、業界では一目置かれた稀代のクリエイターだ。
人とは違ったポイントに焦点を当て、映像の美しさでも定評があり、CMでもこれまで数々のヒット作を世に出している。
しかし、本人は興味があるもの以外、あまりテレビも見ない、芸能人などもよく知らない、というのんびりのほほんとした性格で世の中わたってきたのだ。
これからもそのままでもかまわないのだが、たまにこのところテレビをつけたりするようになったきっかけといえば、佐々木が付き合っている相手によるところが大きいだろう。
初めて会った時、世の中を知らない佐々木はその相手が人気スラッガーなどとは知る由もなかった。
さすがに名前くらいは聞いたことがあったものの、俳優やアイドルの顔と名前が一致しないのと同様、その男と関西タイガースの四番を撃つ人気プロ野球選手の沢村智弘とが合致しなかった。
紆余曲折あって沢村と付き合うようになった佐々木は、プロ野球の結果などをパソコンを立ち上げて知るより手っ取り早くテレビで確認くらいはするようになった。
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