どういう経緯でどうなったとか、詳細を聞いてはいないが、良太が好きなのは工藤だったから、諦めたのだ。
でなければどうだったのだろう、少なくとも佐々木とこんな関係になることはなかっただろう。
「酔いつぶれる前に、汗流したい」
またもや気持ちが下降しそうになってそれを振り払い、佐々木は立ち上がった。
「ああ、風呂、上」
沢村についてらせん階段を上がっていく。
「風呂もいい眺めだから、ゆっくり入って」
バスルームのドアを開けた佐々木は、思わず、わあ、と声を上げた。
ここもガラス張りの眺望を独り占めできる造りになっていて、今はきらきらと街の灯りに囲まれている。
「すごいな」
「あ、そうだ、ちょっと待って」
沢村はシンクの上の棚を開くと、小ぶりなシックなデザインのペーパーバッグを取り出し、中から取り出した箱を包んでいたフィルムを破り、箱を開けた。
中にはいくつかのボトルが並んでいる。
「バスオイル、アロマでオリエンタルな香りが和むって」
明らかに女性向けではないのかというシロモノに、佐々木は戸惑った。
やはり、沢村にはこっちに夜の相手がいるということか。
「従姉がさ、ヨーロッパ土産にくれて、恋人にでも使わせればとかって。いくら何でも俺じゃガラじゃないだろ」
佐々木の妄想をスパッと分断して、沢村が軽く説明した。
「いやまあ、アロマやったらお前でもクールダウンするときとかええんちゃう?」
佐々木は小さなボトルの一つを取り上げた。
「ほな、これ、使こてみるわ」
「どうぞ」
沢村はシンクの横に箱を置いて袋やフィルムをくず入れに捨てた。
それから別の扉を開けてバスタオルやバスローブを取り出した。
「風呂の中で寝ないように」
「努力するけど、寄る年波には勝てんからな」
くすりと笑う佐々木に、沢村は眉をよせる。
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