古くからこの辺りの地主だった佐々木家だが、早くに亡くなった父親は商才もなく病弱なくせに女を連れ込んで遊び暮らしたような人で、今となっては一等地となってしまった土地の税金を支払っていく術は佐々木にはほかになかった。
だがそれを沢村が買ったということは、半永久的に沢村が隣人となる可能性があるということだ。
既に愛し合って結婚したはずの友香に去られた佐々木には、沢村もいずれの日にか別れが来るだろうと思っている。
だから怒ったのだが、本音は沢村との別れなど今は考えたくはなかった。
とりあえずその案件は佐々木の中では保留となったのだが、沢村がそこに家を建てるなとと考えているらしいと、そんな話も直接ではなく耳にした。
全く何考えてんね、あいつは。
佐々木は怒りと同時に切なくなってしまう。
もし、別れることになったらどうするんだと。
若さだけで突っ走れるような時はとうに過ぎ、佐々木は年が明ければ三十四歳になる。
今時姑付きの家に嫁に来てくれるような奇特な女性などいないだろうと思う佐々木とは裏腹に、母淑子は毎朝仏壇を開けて、周平にええご縁がありますように、と手を合わせている。
つきあっているのが男であることだけでも、母親の希望とは程遠いのだから、ええ加減、諦めればええのに、とは、佐々木の内心である。
まあ、いろいろな思いを抱えながらも、佐々木さんはきっと俺とはいずれ別れるつもりでいるんだ、などと考えているらしい沢村の想いに対して、実際のところ会うたびごとに沢村に惹かれてしまう自分をどうしようもない佐々木だった。
だから沢村のCMの仕事を受けた時も、ひどく喜んでいたし、今回大阪に出向いて沢村に会えると、浮き立つ心を押し殺すのにかなりな苦労を擁しているのだ。
「藤堂さんの車で行くんだよね?」
しばらくしてから直子はエアコンの温度を少し上げた。
「そうやね。向こうで車があった方が動きやすいて。藤堂さんの実家のルーツは神戸らしゅうて、関西にも強いみたいや」
「良太ちゃんも一緒だっけ。このメンツは心強そう。沢村っちと楽しんできてね」
「え、いや、仕事やし………」
言い訳のようにぼそぼそと口にした佐々木だが、何だか直子には心の内を読まれているような気がしないでもない。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます