夏霞6

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 淑子は上達し始めると厳しくする。
 優しい先生と思っている門下生はまだまだということだ。
「え、直ちゃんにおごられとったら、俺の立つ瀬がないやん」
「いいのいいの、たまには」
 お茶の用意をしていると、やがて出前が届いた。
「鰻重にしてみました! わーい、美味しそう!」
「豪勢やん、やっぱ俺が払うし」
「だからたまにはいいんだって。佐々木ちゃんには大阪で頑張ってもらわなくちゃだから」
「わかった、ほな、いただきます!」
 テレビをつけて、ニュースなど見ながら直子と一緒に和やかに食事をするというのは、佐々木にとってもいい習慣となっている。
 少なくとも一人でもそもそ食事をとるよりはずっといい。
 佐々木の場合、誰かと一緒なら食事も作るが、一人だと弁当を買ってきて食べるくらいならまだいい方で、その辺にあるパンをちょっと齧ってビールで終わり、なんてこともよくある。
 淑子の方は長年通って来てくれている家政婦の仲田さんが食事を作り、一緒に食べて行ってくれるので、佐々木はありがたく思っている。
 佐々木が結婚して離れに暮らすようになってからは、淑子とは滅多に一緒に食事をすることはないし、佐々木がまた一人になってもそのままだ。
 もともと育ちのせいもあるだろうが、佐々木の家に嫁いだ時も、子供の頃からの世話係だった、さわのが一緒についてきてくれたので、家のことはすべてさわのに任せきりで、ああしろこうしろというばかりの淑子は料理一つ作れない。
 佐々木が中学に上がる頃には、病気がちだった父親も亡くなり、佐々木はさわのに料理を教わったりしていたので、その後さわのが亡くなってからも食事は何とかなったのだ。
 しかしさすがに中学生の佐々木に家事をやらせている状況を見て、横浜の叔母が紹介してくれたのが仲田だった。
 仲田は家事全般こなす上に、折を見て庭の手入れの手配などもしてくれるので、有難い存在だ。
 佐々木も食事を作る以外、掃除は使うところだけ、洗濯も皴がよったシャツを着るくらい平気な性分だったから、茶道教室がある日は弟子たちがやってくれるものの、母屋の床にほこりが舞っているのを見た叔母に呆れられたのだ。

 


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