佐々木の家に来た当初まだ三十代だった仲田もアラ還となったが、佐々木家はもう彼女なしではどうにもならない。
ただし、それは母屋のことであって、佐々木が今暮らしている離れとはまた別の話だ。
はっきり言って、誰か人を呼べるような状態ではない。
もともと佐々木も友香もそんな時間があったら制作に時間をかけたい方で、あまり掃除や片付けには頓着しなかったので、結婚していた頃もたまに掃除機をかける程度だったのだが、友香が出て行ってからは友香が使っていた部屋はあまり入ることもなく、使うといえばリビングダイニングと自分の部屋くらい。
さすがに佐々木親子と長く付き合っている仲田が、たまに掃除を申し出てくれるので、その時はきちんと支払いを回してもらうことにしている。
そういえば、沢村が家を建てるとか言っていたらしいが、家なんか建てたら家事全般どうするとか考えとおらんな、あいつ。
今はホテル住まいで、実家はでかい家でそれこそ家事なんかやってくれるもんがおったんやろうからわかってないんちゃうか。
まあ、ハウスキーパーとか頼めばいいくらい思うてんやろけど。
その夜、佐々木は遠足に行く前の小学生のように、暑さの上に気持ちが高揚してなかなか寝付けなかった。
車で寄るからと、美味しい朝食も用意していくので食べてこなくていいと、藤堂に言われて、翌朝五時前、佐々木は離れの門の前で待っていた。
時間通りに藤堂の愛車である紺のプジョーが停まった。
「おはようございます」
藤堂は佐々木のバッグをトランクに入れると、後部座席のドアを開けた。
ピクニックか何かのように、佐々木の隣には大きなバスケットが鎮座している。
「静岡あたりで朝ごはんにしましょう。では、出発進行!」
飛行機か新幹線でも時短になるところを、たまにはドライブを楽しんでいきましょうよ、という藤堂の意見で、約六時間ほどを三人で交代に運転していくことになったのだ。
静岡のサービスエリアまで二時間ほど、七時頃に着いたが、猛暑日でもまだ日中よりはマシで、富士山がきれいに見える。
テラス席のテーブルの上にバスケットを開くと、藤堂は陶器の皿やマグカップ、それにカトラリーにナプキンを取り出した。
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