花びらながれ2

back  next  top  Novels


 これまで何だかだと沢村のトラブルに巻き込まれてきた良太としては、できればこのくそ忙しい時に何もあってほしくはないと頭の中から沢村のことをシャットアウトする。
「良太ちゃん、坂口様からお電話です」
 社長の工藤がドラマの撮影でギリシア辺りをうろついている間に、やらなくてはいけないことが山積みで、とにかくビシバシとキーボードを叩いていた良太は、鈴木さんの声に顔を上げた。
 ええええ、また坂口さんか、何か面倒な話じゃなければいいけど。
「お電話代わりました、広瀬です。あ、はい、お世話になっております」
「よ、良太ちゃん! 今日も元気そうじゃねぇか」
 飽和状態を超えて良太の倍以上も忙しい工藤を、先月末わざわざ北海道まで呼びつけて、ドラマを一つ押し付けた張本人、名物脚本家の坂口陽介の能天気そうな声がのたまった。
 工藤とはMBCに籍を置いていた頃からよくタッグを組んで番組を作っていたかなり気難しいと評判の売れっ子脚本家である。
 顔を合わせてみればゴリ押しは当たり前、スケジュールタイトはわかりきっている大物人気俳優宇都宮俊治までも簡単に呼び寄せてしまう、一見軽いノリの確信犯だ。
 主演を想定していた宇都宮俊治が公演中の札幌で出演交渉を兼て打ち合わせをした際、良太も工藤について顔を出したのだが、坂口には何やら気に入られたらしい。
 誰でも彼でもが気に入られるとは限らないところが気難しいと言われる所以だ。
 だがお蔭でこうして良太のところにちょこちょこ電話がくる。
 工藤が、いない時は良太にとか言ってくれたお蔭で、つまりは面倒なことを押し付けられたわけだ。
 札幌で打ち合わせをした時点でおおよそのキャスティングは決まっていたようなものの、肝心のヒロイン一人の決定が少しもたついていた。
 キー局のひとつNBCの創設六十周年記念番組として秋に放送予定のドラマ『田園』は榎木賞作家大須賀健の代表作を原作としており、過激だが透明感のある描写が幅広い年齢層で人気を得た作品だ。
 実はもっと以前に決まりかけていたドラマが脚本家が病気とかでぽしゃったため、急遽NBC側から坂口に打診があり、坂口が工藤とならやると宣言したらしい。
 お蔭で工藤を通じて良太までが日々を忙殺されることとなったわけだ。
 原作は、内科医の美人妻がいて、やがては大学の学部長の椅子は確実といわれ、順風満帆な人生を送っていたはずの四十代外科医の主人公が、生まれ故郷の小樽に立ち寄った時、別れた昔の恋人の娘と出会うことから、主人公の人生が少しずつ狂い始めるという内容で、十八歳の高校生と主人公の過激なシーンも盛り込まれることになっている。
 ここでヒロインを打診していた事務所から、そのシーンの内容から断りを入れられた。
 新人女優には荷が重すぎるというのが理由らしい。
 そこでスポンサーの一つである家電大手がもともと押していた竹野紗英に白羽の矢が立った。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村