誰にもやらない22

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 佐々木のお達しで浩輔は二年ぶりに一張羅のスーツに袖を通し、佐々木や営業の土橋と共にコンペに出向くことになった。
「新入社員って感じ! コースケちゃん」
 案の定会社の女の子たちは、スーツ姿の浩輔を見て、キャーキャー騒ぎ立てる。
「C社のコンペなんだよ!」
 からかう女の子たちから浩輔をもぎ取るようにして、佐々木は会社を出た。
 外出している土橋とはC社のロビーで直接合流することになっていた。
 午前十時にはプレゼンが始まり、かなり細部まで突っ込んだ説明を要求され、終わったのは十二時過ぎになった。
「クリエイターにマーケティング戦略まで口にされちまっちゃな……高田部長に、頼もしい営業さんが入りましたね、なんて言われてみろ、こっちは立つ瀬がないぜ、コースケ」
 苦笑いを浮かべた土橋がそう言ってため息をつく。
「すみません…俺、必死で…」
 今回この仕事はとれないと決めてかかっていた土橋は覇気がなく、その分、浩輔はつい熱が入ってしまったのだ。
 絵ができない時に、サーバにあった土橋の今回の仕事の資料を自分の画面で何となく眺めていた。
 お陰で余計なことまでしゃべったかもしれないとも思う。
「成程、コースケちゃんが相手ってわけだ、こいつは手強いな」
 エレベーターを降りてホールに足を踏み出した途端、案の定、皮肉たっぷりにニヤニヤ笑う藤堂がいた。
 そして河崎が喫煙コーナーで煙草をくわえている。
 ……やっぱり、河崎さんだったんだ
 浩輔は動揺を隠せずにぐっと拳を握る。
「何しろ、コースケちゃんは天下の河崎達也の一番弟子だったんだもんなぁ」
 藤堂はまた小馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
「勝算ありいうとこですか? 河崎さん」
 河崎は挑発気味な佐々木を一瞥しただけで、藤堂を促し、さっさとエレベーターに消えた。
 二人の後には、クリエイターらしき男と一緒にフレーームレスの眼鏡がいかにもエリート然とした男が従っている。
 思わず浩輔は河崎を目で追っていた。
 この期に及んで、何を期待してたんだ?
 あのいかにも有能そうな男が河崎さんの新しい部下なんだ、きっと。
 部下でもなければ河崎さんに気にとめてもらえるような存在じゃないのに。
 俺って、超のつくバカ…!!
「クッソ!! 偉そうに、何様のつもりだ!」
 三人が消えると、土橋が憤懣やるかたないとばかりに声を荒げた。
 久しぶりに見た仕事に向かう河崎のようすは相変わらず隙もない。
 できる男というのは、ああいう男のことをいうのだ。
 河崎達也と藤堂義行、この二人が揃えば恐いものなしだ。
 やっぱり今度の仕事は英報堂に持っていかれる。
 浩輔は大きく溜め息をついた。
「決まったら、溜め息つくヒマもないんやで!」
 あくまでも強気の佐々木に頭をかき回され、浩輔は、はあ、とお座成りの返事をした。
 

 


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