誰にもやらない4

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 必然的に土橋の運転するワゴン車には男三人。
「しかし、ほんま、腹たつで、あのコマシヤロー!」
 関越自動車道に上がった頃、サイドシートに大きな身体を縮めていた大沢が、溜め息混じりに口にした。
「まぁだ、言ってるよ」
 ハンドルを握っている土橋が笑う。
「どしたんですか?」
 一人後ろで荷物に埋もれている浩輔は、座席の間から顔を覗かせた。
「先週、CF撮り立ち会った時、こいつ、モデルのリサって、ちょっと色っぽいコと意気投合しちまって、スキー、誘ったんだと」
 大沢の代わりにニヤニヤと土橋が答えた。
「たまたまそこへ英報堂のモテ男が現れた途端、そのコ、コロッと態度変えて、そっちの方に駆け寄っていっちまったってわけ」
 いきなり土橋の口から飛び出した英報堂という言葉に、浩輔は密かにドキリとする。
「英報堂がなんぼのもんやっちゅうねん!!」
 浩輔の心のうちなど知る由もなく、大沢が喚く。
「ま、相手が悪かったわな。やめとけやめとけ。シンドイだけだぜ? なぁ? 浩輔」
 土橋は浩輔に同意を求めるように言った。
 英報堂といえば業界トップクラスの広告代理店だ、弱小代理店としてみればどうあがいてもかなわなかった悲哀が身に染みている。
「そーだなぁ、シンドイのはやだなぁ、俺」
「安心せぇよ! お前に、そんなシンドイ大恋愛なんて巡ってきぃへんて」
 のほほんと答える浩輔に、振り返った大沢がガハガハ笑った。
 そうだ、シンドイ大恋愛なんて、やっぱ、ゴメンだよな…。
 それに英報堂なんて、名前聞くのも遠慮したい。
 窓の外の闇に向って、浩輔の心が呟いた。
 ああもう、やめやめ。夕べ徹夜だったし、悪いけど、寝させてもらお。
 コツンと、浩輔は窓に頭をあずけて目を閉じた。
 
 
   
 
 ちょうど高速を降りた辺りから雪になり、会社が所有する上越の山荘に一行がようやく辿り着いた頃にはもう十時を回っていた。
「女の子は二階の窓の大きい方の部屋やね、ヤローはそっちの八畳間」
 山荘に着いて一旦リビングに落ち着くと、すかさず大沢が部屋割りを言い渡した。
 近くのスキー場まで徒歩数分、遊び好きな社長の春日が奮発して買ったという3LDKである。
 古いアメリカンタイプの山荘は結構くたびれているがビルトインガレージに車二台は楽に置けるし、風呂は一階と二階にそれぞれついていた。
「すげぇ雪……」
 浩輔はカーテンを引こうとして窓から外に目を凝らした。
 東京にいるとこんな雪はそうそう拝めない。
「奈美ちゃん、スノボ、やるぅ?」
「やるやる!」
 直子と奈美がきゃぴきゃぴと声を上げる。
「コースケちゃんもやるよね?」
 だらっとリビングのソファに陣取り、早速飲み会が始まった男どもに対して、吹雪だろうが何だろうが女の子には関係ないようでおしゃべりが弾む。
「だから、俺、スキーしか持ってないし…」
 直子に急にふられて浩輔は返答に困る。
「どのくらいすべれるんや? コースケ」
 さっそく女の子にかまわれている浩輔を見て、佐々木が背後から首を突っ込できた。
「えー、ほっとんど、俺、初心者で」
「ほな、鍛え甲斐があるなあ」
「えっ、冗談やめてくださいよぉ」
 長旅の疲れもどこへやら。
 遊びの前のワクワクムードで、みんなではしゃいでいるうちに、夜は更けていった。

 


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