誰にもやらない6

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 楽しい遊びにどれだけ夢中になっていても腹は減るらしく、昼のレストハウスやカフェはどこも人で溢れていた。
 センターハウスの隣にあるメインカフェテリアの玄関前では、大沢と直子が浩輔たちを待っていた。
「あー、来た、来た。コースケちゃぁん!!」
 直子が両手を大きく振っている。
「おっせーでー、コースケ!!」
 スノーボードを抱えた大沢が大声をあげた。
 シュバッと、仲間の前で佐々木がカッコよく決めてスキーを止めた。
「ワリィ、コースケを上で扱いてたからな」
「ウワッ……と」
 後ろからきた浩輔は、勢い余って佐々木にぶつかり、ガシッと佐々木に支えられた。
 スキーを外のスキーラックに立てかけてカフェテリアの中に入ると、女の子たちが席を確保してくれていた。
 セルフサービスの長蛇の列に並ぶのは男たちの役目である。
「コースケちゃぁん!! あたし、プリン追加ねー」
 直子がよく通る声を張り上げた。
「ホ~ィ」
 慣れないスキーブーツが歩きにくい。
「うわ…」
 浩輔は前につんのめりそうになり、後ろの佐々木にまた支えられた。
「ったく、世話がやけるんやからな、コースケちゃんは」
 佐々木の後ろにいる大沢がわざわざ大仰な言い回しで揶揄する。
「へへ……すみません~」
 笑ってごまかした浩輔だが、ふと、頭の中に男の怒鳴り声が蘇った。
『しゃんとしろ、しゃんと!!』
 ちょうど初めて一緒にスキーに行ったあの時ももたついてて、世話かけどおしだった。
 俺って、ホント、役たたずの部下だったよな…。
 やたらと昔のことを思い出すのは、さっきの黒いスキースーツの男のせいだろうか。
「まさかって思ってたけど、ヤダ、本当にコースケクンじゃないの?」
 レジを済ませて席に戻りかけた浩輔の目の前に立った、蛍光オレンジと黄緑も鮮やかなウエア。
 嫣然と美しい女の声に、浩輔の思考は一瞬固まった。
 え……! 何で…、松井さやかがここにいるんだよ!!
 さも小ばかにしたような笑みを浮かべているのは、英報堂にいた頃、浩輔を散々イビってくれた女だった。
「コースケちゃーん、どしたのぉ?」
 直子の声が浩輔を呼ぶ。
「すっかりイメージ変わっちゃったわね。あのコ、彼女?」
 それを無視して席に戻った浩輔の前で、大沢がガツガツとあっという間に大盛りのカレーライスを平らげていく。
 松井さやかがいる、ということは、ひょっとしたら…
 …いや、まさかね………
 のろのろとスプーンを動かしながら、さやかのいきなりの出現に、浩輔の頭の中は味も何もわからないほどパニクっていた。
 
   
 
 
「もういっちょ、頂上行くか? な、コースケ」
「ひぇ~っ!! もー勘弁してくださいよぉ」
 午前中と同じメンバーで、それぞれにゲレンデに散ったのだが、容赦ない佐々木の言葉に浩輔は悲鳴をあげた。
 テニスでもゴルフでも遊びとなると半端ではないこの会社の面々の例に漏れず、佐々木は仕事の時のノンビリムードとは人が変わるのだ。

 


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