「そうそう、あの二人、学生の、あの子らも、一応坂本さん心配してきてくれたのよ」
笑いを含んだ声でアキ子が言った。
「へえ、あいつらが?」
「学生なんてバカばっかだと思ってたけど、悪い子じゃないみたいね」
最後に、ありがとう、とアキ子に言われて携帯を切ったが、お人よしも悪いことじゃないな、などと良太は思う。
「なんだ、アキ子ってのは」
不機嫌そうな声で工藤が聞いた。
「え、だから、昨日、車に乗せた人ですよ」
アキ子から聞いたことの顛末を良太は話したが、工藤は、ふーん、と面白くもなさそうな返事をしただけだ。
せっかくいい気分なのにと良太は思うのだが、工藤が実はアキ子という名前に過剰反応しているなどとは思ってもいない。
「今日はぜってぇ一緒に風呂には入らない!」
そう宣言して、工藤の前にたったか風呂に入った良太だが、「せっかくだからベッドもつかわなけりゃな」などという不埒な社長の言葉で、今度はベッドの中で泣かされるはめになる。
いつもの憎まれ口はどこへやら、工藤の指で簡単に箍が外され、身体中が熱を帯びて、ちょっと触れられるだけで良太の口から吐息が漏れる。
雪に酔ったかのように珍しく執拗に、工藤は良太を嬲り、なかなか眠らせてくれなかった。
翌朝も小止みにはなったものの、まだ雪が舞っていた。
朝はゆっくり部屋で食事を取り、工藤はむすっとしたまま緩慢な動作で着替えをする良太を手伝ってボタンをとめてやる。
「何がご不満だ?」
ついと工藤の指が良太の頬に触れる。
「や………っ!」
思わずその手を良太は払いのける。
工藤は笑う。
「何だ、まだ足りないのか?」
「バッカヤ……ロ…」
逆に工藤の腕に引き込まれて、唇をふさがれると、一晩中たっぷりと工藤の毒を注ぎ込まれた良太のからだはまるでバターになったトラのようにとろとろに溶けてしまいそうなのだ。
「何なら、帰ってからまたお前の部屋で続きをするか?」
からかう工藤の腹に、良太は力なく拳を入れた。
鈴木さんや会社の土産にはホテルのパティシェリで特性のクッキーを買い、良太がロビーに戻ると、スキーをキャリーに積み、荷物をトランクに入れ、支払いを済ませた工藤が良太を呼んだ。
どうやら秋山も千雪も、工藤に休みを取らせようと、今回の計画を思いついたのだろうし、本来なら荷物運びは部下である良太の仕事かもしれないが、今日の良太は何もやるもんか! と強気だ。
エサにはエサのプライドってもんがあるんだっ!
ついつい良太はイジケモードに走りがちだ。
だが道中ハンドルを握る工藤は珍しく携帯を切り、良太に飲み物を買ってきたり、寒くないかと声をかけたりとマメに世話をやく。
そんな工藤を見ていると、まあ、ちょっとは許してやってもいいか、と思ってしまい、あ~あ、と心の中でため息をつく良太だった。
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