クリスマスの空8

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 やっぱり、俺だけのんきに坂本と遊んでいるわけにはいかないな。
 明日がイブという日、帰りがけに玄関で待っていた坂本にそう伝えると、坂本は「そうか」と言って笑っただけだった。
「ごめんなさい、呼び留めて。聞いてほしいことがあって」
 さあ、帰るか、と玄関を出ようとした時、二人は聞き覚えのある声に足を止めた。
「何だ?」
 玄関を出てすぐ脇にいるのは若宮と力らしい。
「私、やっぱりあなたが好き。もし今誰ともつき合っていないのなら、もう一度、考えてほしいの」
 こんな人がごちゃごちゃ行き来するすぐ傍で、おそらく若宮は誰に聞かれてもいいくらいの覚悟なのだろう。
 咄嗟に佑人は足早にその場を通り過ぎる。
「あ、おい、佑人!」
 坂本は佑人を呼んだが、その脇を力がすぐに走って行く。
 振り返ると若宮がポツンと一人残されて、はあ、と溜息をつくのが見えた。
「おい、力、ちょっと待て!」
 坂本は慌てて力を呼びながら追いついて、その腕を引いた。
「話がある」
 力は怪訝な顔をしたが、既に佑人の姿がないことを確認すると、「お前まで何の用だ」と不機嫌そうに聞いた。
「若宮には何て言ったんだ?」
「言う前に佑人のヤツが行っちまったんじゃねぇか!」
「フーン、じゃ、お前としちゃ、佑人を取るわけ?」
「ざけんなよ、ったりまえだ!」
 力は声を荒げて坂本を睨みつける。
「にしちゃお前ら、ここんとこ、しっくりいってなくない? で、成瀬にクリスマスパーティしようって誘ったんだけど……」
 いきなり無言で胸ぐらを掴まれた坂本は「……っく、離せって! 成瀬には断られたって」と怒鳴りつける。
「……ったく、ガキ大将め、じゃ、何だ、お前、成瀬相手にまさかヤリまくってんじゃねーのか? いくら好きだっつったって、成瀬、アッチの経験なんかなさそうじゃん、あんまり無体なことするから、きっと成瀬、考え込んじまって……」
「何だと……? 言っとくが、無体も何も俺はあいつとヤッてねーし」
「は?」
 坂本は聞き間違いじゃないかという顔でしげしげと力を見つめた。
「ヤッて……ない? お前が? 成瀬とつき合い、半年は経ってるよな?」
「るせーな………」
 力は不貞腐れたように言い捨てた。
「んじゃ、てめ、どっか別の女で発散させてやがんのか?」
 思わず坂本は声を上げる。
「させるかよ! 俺は、その、あいつのことは大事にしてやりてぇし、無茶なことしたら嫌われるに決まってっだろ!」
 次の瞬間、坂本は声を上げて笑い出した。
「何、笑ってんだ! やろ…」
「………ったくよ、力が純愛って、超似合わねからやめとけって!」
 ようやく笑いを収めた坂本が、笑い過ぎの涙目で言った。
「何、焦ってんのか知らねぇけど、成瀬とちゃんと会ってんの? とにかくやるときゃやっとかねぇとさ、陰で女とよろしくやってんじゃねーかとか、って、不安にさせるだけだってこと」
 すると力はガシガシと頭を掻き毟る。
「明日はおあつらえ向きにイブだし?」
「……っせぇんだよ! んなこた、お前に言われなくたってだ!」
 肩を怒らせて駅へと向かう力の後ろ姿に、坂本は怒鳴りつけた。
「だから、俺は、狂言回しかよってんだ! ちくしょ!」

 


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