師走に入ると、広瀬良太は今年も慌ただしくオフィスを出たり入ったりしていた。
来春放映予定で秋から撮影に入っている『検事六条渉―ひとりぼっちの烏』は、俳優陣のスケジュールに合わせながらなので歩みはゆっくりだが、重厚な作りになっていて、制作陣も気合が入っているし、主演の山内ひとみが感情を抑えてセリフも物静かな表現が逆に凄みを感じさせると良太は改めて大御所と呼ばれるひとみの実力を目の当たりにしている。
世の中は戦争があちこちで勃発して、どこかの独裁者がやめようとしないから被害が増大し経済も落ち着かないし、おかげで物価は上がり、円安が続き、政府は政府でぐだぐだで、どちらを向いてもひどいことばかりだ。
だが、人間、仕事をしないと生きては行けないわけで、つい先週末の金曜日には、青山プロダクション毎年恒例の業者を招待しての忘年会が行われた。
今年はGWに封切られた映画『大いなる旅人-京都』が非常に好評でアカデミー賞候補の呼び声もある。
実力派と言われながらこれまで賞とは無縁だった主演の志村義人も話題をさらったし、特に安倍晴明の生まれ変わりを演じた能楽師檜山匠が大きくクローズアップされた。
だが、そうした華々しい話題も既に過去だとばかり、社長の工藤高広は次の映画やドラマへと意識はとっくに移行している。
「え、コラボですか?」
再来年春封切を予定しているのは小林千雪原作の『検事六条渉』と老弁護士シリーズのコラボ作品だという。
たまたま千雪が六条渉シリーズに老弁護士シリーズの御園生弁護士と海棠弁護士を思い付きで登場させてみた原作を、映画化することになったのだ。
「何だって千雪さん、思い付きだけでそんな何人もメインキャストを出すかな」
ついつい文句も言いたくなるというものだ。
主役級の俳優が何人もということになると、いろんな意味で良太にとっては大変で面倒なのだ。
しかも、ゲストのキャスティングが難航している。
そんなこんなで頭を悩ませていた良太に、最近またぞろ降ってわいた難題を、とりあえず保留にしている。
何しろ、「明日、札幌へ飛んで、ロケに使う屋敷を見て来い」なんて、急に、今日になってこの横暴社長は良太に命令してきたのだ。
「明日? 俺、午後一でパワスポ入ってますから夕方じゃないと無理なんですけど」
「じゃあ、夕方行けばいいだろう。俺は明日名古屋だから行けるかどうかわからない」
「夕方ってことは泊まりですよね? 必然的に。明後日クリスマスイブじゃないですか」
「クリスマスイブが何の関係があるんだ?」
これだよ、と良太は昭和なオヤジを上目遣いに見やる。
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