「仕事は明日だろうが。第一、ここまできて、その色気のないジャージはなんだ」
工藤がいちゃもんをつける。
「出張の時の必須アイテムに色気もクソも……」
ないと続けようとした唇を塞がれて、ベッドに押し付けられた良太はもがくのだが、執拗なキスに結局負けてしまう。
「朝、咲子さん来るって……」
「朝までやりたいのか?」
ニヤニヤと笑う工藤に色気のないジャージははぎ取られ、むき出しの肌が触れ合うと、良太ももうどうにでもなれという気分になってくる。
外は粉雪が降り続いている。
喧騒を離れた静かな夜の闇に互いの吐息だけが飲み込まれていった。
バスルームのドアが開いた音で、かろうじて良太は身体を起こした。
「…………え、何時?」
「あと十分で九時だな」
工藤の答えに無理やり目を開けた良太は、半分冷めやらぬ頭のままシャワーを浴びに行った。
「慌てなくてもいいだろ。飯は逃げない」
暢気そうな工藤の台詞が良太の背中を追った。
ちぇ、誰のおかげだと思ってんだよ。
疲れてるとか言いながらめっちゃエロ全開だったくせに。
良太がブツブツ呟きながらシャワーを浴びているうちに、工藤がシャツの上にカーディガンを羽織り、リビングに降りていくと、キッチンから「おはようございます」という声が聞こえた。
「おはようございます」
テーブルの上には卵焼きに焼き鮭、海苔に漬物といった和食の用意ができていた。
「あたしったら夕べ、朝ごはんに和食か洋食かお聞きするのを忘れてしまって、どちらでも召し上がっていただけるように、スープやパンもご用意してありますので」
咲子は申し訳なさげに言った。
「和食で大丈夫ですよ。ありがとうございます」
九時を五分ほど過ぎた頃、ジャージに寝ぐせのついた頭の良太が慌てて降りてきた。
「おはようございます。わ、美味そう」
降りてくる前から味噌汁のいい匂いが良太の腹の虫を刺激していた。
「パンはサンドイッチにしておきましたから、よかったらあとでどうぞ。スープも冷蔵庫にいれてありますから」
二人が食べている間に咲子は手早く支度を整え、「食器洗っていただいてありがとうございます。お忙しいでしょうから、ほんとにシンクに置いてくださればいいので」と言って帰っていった。
「やっぱ、朝、和食って手がかかりますよね。咲子さん、すごいや。なんか母親ってえらいよな」
ご飯を口に運びながら良太がしみじみと言った。
朝、和食にするには、もし用意できたとしてもよほど早く起きないと無理そうだ。
「お前んちは朝、和食だったのか?」
「いつもじゃないけど、あ、この大根の煮物、うま! こういうの、ホテルとかじゃ絶対でてこないですよね、家庭の味っていうか」
すると工藤も「切り干し大根だ。確かにうまいな」と言う。
「スキー合宿の時も京助さんや研二さんが作ってたから、いろいろなおかず楽しめましたよね。また来年も行きましょうよ」
「日程が合うかわからない。まあ、お前はスケジュールとっておけばいいだろう」
それを聞くと、何だ、また一緒に行きたいのに、と良太は心の中で思う。
「工藤さんこそあらかじめ休暇を取っておけばいいじゃないですか。今年もいくら何でも仕事づけ過ぎ」
ダメモトで良太が抗議してみると、意外や「まあ、そうだな」と工藤が言う。
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