好きだから11

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 若手人気俳優の水波清太郎が覚せい剤所持で逮捕されたことで、出演していたドラマや映画やCMがかなりな損害を被ったというニュースは十月初めに日本中を駆け巡った。
 なまじっか人気俳優だったために、CMは放映差し止め、ドラマや映画は撮り直しや映像差し替えなど関係者は大わらわとなった。
「プラグインは藤堂さんの情報網から随分前から水波を使わないようにしていたし、うちにもその情報をくれていたんで、工藤さんの息がかかったドラマとかは水波を外していたんだけど、よその制作で年明けから放映予定のアスカさん準主役のドラマが水波が主演だったりして代役を探して撮り直しだ。しかもそのドラマ、スポンサーの意向でCMも水波を使わざるを得なくて、制作携わってたから佐々木さん、さっき打ち合わせに寄ったんだ」
 先ほどから良太が作成していたのはその関係書類だった。
「他にも、佐々木さん、古巣のジャストエージェンシー経由で紹介された電映社の仕事で、アホな担当が押したのが水波で、放映間近で上を下への大騒ぎで、ニューヨークから帰ったばっかなのに、今頃、その電映社の担当と打ち合わせじゃないか?」
「そうなのか」
 昨夜沢村が電話した時、佐々木は確かに疲れているようだった。
 明日何とか会えないかとごり押しして無理やり約束を取り付けたが。
 下手に動いて佐々木のことを父親の手の者に嗅ぎつけられるわけにはいかないのだ。
 そうだ、年末の大掃除! 何とかして佐々木さんの家に行く手段を考えないと。
「それよりまず明日、どうやって、佐々木さんに会うかだよな」
 うっかり沢村が口にしてしまったのをすかさずアスカが聞きつけた。
「ふーん、明日、佐々木さんと会うんだ? で、父親の放った間者に嗅ぎつけられたらって心配してるんだ? 協力してあげようか?」
「アスカさん!」
 面白がっているらしいアスカのセリフに、ソファから立ち上がった秋山と振り返った良太がほぼ同時に声を上げた。
「いい考えがあるの」
 何をやらかすつもりだという良太と秋山の怪訝な顔を見つめながらアスカがにっこりと笑った。
  
 

 
 その夜、佐々木の携帯が鳴ったのは午前零時を過ぎた頃だった。
「俺、起きてた?」
 待っていたその声に、佐々木は勝手に胸が熱くなるのを覚えた。
 もともとのんびり生きてきた佐々木は、ニューヨークから戻ってから忙しすぎて訳が分からなくなりそうで、疲れ切ってうとうとしていた。
 だが、昨夜久しぶりに沢村の声を聞き、明日会う約束をしてから時間を連絡すると沢村が電話を切ってから、打ち合わせをしている間も頭のどこかでずっと連絡を待っていたのだ。
「ああ」
「明日、時間取れる?」
「ああ、取れる」
「何か忙しそうだけど、大丈夫?」
 いつも図々しいくらいなのに、妙に引いているような言葉に、佐々木の心に得体の知れない不安が過る。
「…大丈夫だ」
 一呼吸おいて佐々木は答えた。
「じゃあ、明日、七時にオフィスに迎えに行く。いいか?」
「わかった」
「ほんとは、すぐにでも会いたいとこだけど、疲れてるみたいだから。……じゃ、明日」
 自分もすぐにでも会いたいと口にしそうになって、一瞬躊躇しているうちに電話は切れてしまった。
 ふう、と佐々木は一つ息をついた。

 


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