佐々木はソファに腰をおろして、しばらくぼんやりしていたが、思い出したようにトイレを使い出てくると、またソファに座り込んだ。
「上の和室、畳も新品になってる」
二階もチェックして階段を下りてきた稔は上機嫌で、買ってきた酒や飲み物類を冷蔵庫にしまう。
「稔さん一家がここでゆっくりできるようにって、手塚先生も考えはったんと違う?」
「さあ。あのオフクロだからな。自分が楽しむってのが一番の理由だろ。あ、弁当、食うか? 腹減ったろ」
稔はやかんをガスレンジにかけて、袋から弁当やお茶のパック、インスタントコーヒーを取り出した。
「うーーん、あんまり。食欲ない感じ。それよりサンタ、間に合うん? これから帰るつもりやろ?」
「一応、急患で一時間遅れるって言っておいた」
「ウソばっか。ま、そのくらい休んでからの方が運転も心配ないな」
「コーヒーでいいか?」
「普通のお茶がええ」
稔は食器棚からマグカップを取り出して、お茶のパックを入れて湯を注ぐ。
「いつまででもいていいし、掃除とかもやらなくていいぞ。ハウスキーパーに頼むから」
「仕事明けで休みなかったし、今日明日くらい? 日曜の夜はお茶の稽古あるよって、サボったりしたらオカンがカンカンや」
直子にはとりあえず明日休むて連絡しといたらええな。
佐々木が疲労が溜まりきってることは知っているから、一日休むと言っても、直子はおそらく納得してくれるだろう。
「お前な、いい年して、オカンオカン言ってる場合かよ。弁当ちょっとでも食わねえ? 持っていくわ」
「ええよ、そっち行く」
キッチンの横に四人掛けのテーブルがあり、佐々木は椅子を引いて座る。
「お茶の稽古は仕事絡みなんや。稔さんの天敵の綾小路紫紀さんの奥さん、大和屋いう呉服問屋の娘で、そこのイベントの一環で、茶の湯をやることになってる。今年の正月のイベントほどでかくはないけど、年明け二日に、オカンの一門ごとかり出されよって」
佐々木は温かいお茶を飲んで少し息をついた。
「天敵は京助だろ。しかしそらまた、メンドイ話だな。お前も大概、母親離れできねぇな」
「まあ、しゃあないわ」
「弁当、食いたくなったら食え。冷蔵庫いれておく。今から買い出し行くが、何か欲しいもんあるか?」
稔はざっとカップを洗うと、弁当を冷蔵庫に入れた。
「おおきに。今んとこ思いつかん。ちょっと寝るわ、寝不足で頭ぼおっとしとるし」
「おう、待ってろ。ベッド、用意してくる」
リビングの隣に十畳ほどの寝室があり、ベッドが二つ、奥にはクローゼットや小さなデスクがあり、オイルヒーターが設置されている。
カーテンを開けると、雪に覆われた白樺の森が広がっていた。
稔はクローゼットからシーツを取り出してベッドを整え、佐々木を呼んだ。
「じゃあ、もう、寝てろ。俺は買い出し行ってくるから」
寝室から出てきた稔は、ソファに放っていたバッグを掴んで玄関に向かおうとした。
「ほな、寝さしてもらうわ」
立ち上がって歩き出そうとした佐々木は、少しよろけてテーブルに手をついた。
視角の端に何気なくそんな様子を捉えた稔は、違和感に振り返った。
「おい、周平!」
つかつかと佐々木に歩み寄った稔は、その腕を掴んだ。
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