「いいか、これからお前がこっちに来るんなら、俺は大事な用があるからここを出る。来ないってなら、もう一切、周平から手を引け」
「誰が引くか! 場所、教えろ!」
間髪入れずに切り返した沢村に、稔は続けて言った。
「来るつもりなら、お前、姑付きのうちに婿に入るくらいの覚悟で来るんだな」
「はあ?! ……んなくらいの覚悟、とっくにできてんだよっ! あんたに言われなくても!」
沢村ってこんな血の気の多いやつだったか?
いつも偉そうに上から目線で見下ろしてロクにしゃべりもしねぇ生意気なやつだと思っていたが。
稔は苦笑いする。
「ここの住所、言うぞ。長野県茅野市北山白樺湖××××、鍵はポストの下に張り付けとく」
「……わかったっ!」
「待て待てい! この辺りには店とかないからな、食料とか仕入れるには車で街にでるしかない。明日になっても熱が下がらなかったり、具合悪そうだったら街の病院、連れていけ。内村医院って俺の知り合いがやってるから」
「内村医院だな」
「連絡入れておく。それから!」
「何だよ!」
「周平の特効薬になれるかどうかは、お前次第だ。運転するんなら、クールダウンしろ」
携帯はいきなり切れた。
「………ったく、このガキァ!! しかし考えてみりゃ面白れえ組み合わせだな。ああ、CMの仕事かなんかでとか? にしてもあの周平がなあ」
あの器量だから男にももてたし、俺を筆頭に親衛隊もいたくらいだが、どっちかっつうと可愛い子がタイプじゃなかったか?
どっちにせよ、こりゃ、周平側の問題だな。
大の男であれ、いや、年をとればとるほど人と気持ちが通じ合えるかとか、怖くなるのはわかる。
わかるが。
「逃げを打ってばっかじゃ、先にも進めねぇだろうが、このバカが。とっとと決着つけろよ」
時刻は既に五時になろうとしている。
眠っている佐々木にそう声をかけると、稔は枕もとに佐々木の携帯を置き、後ろ髪を引かれる思いで山荘を出た。
中央道に乗る頃には雪がちらつき始めていた。
辺りは既に薄闇に包まれていた。
時折強い北風が通り過ぎるのだろう、窓越しに木立が揺れている。
一番町にある佐々木家の生け垣に車を横付けしていた沢村は、電話を切るとすぐ定宿にしているホテルへとハンドルを切った。
トレーニングを終えてすぐオフィスササキのビルに向かったが、オフィスは明かりが消えていたので、佐々木の家に来てみたのだ。
車があるのを確認して携帯に電話をしたが、出たのは佐々木ではなかった。
目一杯仕事に追われていたらしいことは、良太からも聞いていた。
そういえば、去年も一度佐々木が熱を出したことがあった。
疲労が重なったのだろうと、手塚が言っていたが、自分が佐々木を追い詰めたせいもあるのだろうと、沢村には忸怩たる思いがあった。
「あのやろう! 人を試すみたいなこと言いやがって!」
いずれにせよ手塚という男の言いぐさは今思い返しても腹立たしい上に悔しい。
何より佐々木を連れて蓼科にいるということ自体、腸が煮えくり返る。
一旦、気を落ち着かせると、蓼科あたりにいくつもりならこんなデカい車はないだろうと思う。
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