師走のビル風は身体の底から凍えさせる。
ましてや世の中不景気最前線。
経済も冷え切っていて、財布の紐も硬いようだ。
それでもクリスマス間近とあって、街は明るいイリュミネーションに彩られていた。
デパートを始め日本料理の店などには、万単位のお節の注文が相次いでいるようだ。
良太は久しぶりに両親と電話で話したのだが、今年は例年より忙しいらしい。
年末年始なども既に予約一杯にもかかわらず、問い合わせが殺到しているのだそうだ。
会いに行くには、三が日を避けた方がいいだろう。
良太が今、やきもきしていることがもうひとつあった。
年明け第一回オンエア予定の『パワスポ』に出演を依頼している野球選手からまだ返事をもらえていないのだ。
番組予告では、『ジャイアンツ』のスラッガー小宮と匂わせているが、まだはっきり名前を挙げられない。
アメリカ大リーグ入りが確定している小宮だが、どの球団に行くかが決まっていないため、彼の代理人からの返事待ちなのだ。
電話だ、とすぐに受話器をとれば、またしても『例のCMタレント』の取材がしたいとくる。
うんざりした顔で良太が断る理由を並べ立てている時に、オフィスのドアが静かに開いた。
「恐れ入ります、お客様がいらしたようですので、失礼します~」
これ幸いと電話を切って顔を上げた良太は、そこに立つ人物を見て、ちょっと息を呑む。
「びっくりやわ、雪やで、寒い思たら」
頭やコートの雪をドアの外で払い、小林千雪は入ってきた。
黒いコートから粉雪がはらりと落ち、抜けるように白い肌に薄っすらと頬に赤みがさしている。
そんなようすはまさしく美という形容にふさわしい。
こっちがびっくりだよ。
いきなり現れるし。
心の内で呟きつきつつ窓の外に目をやった良太は、窓一面雪が覆っているのにまた目を見張った。
「げ、いつの間に、すんげー雪!」
「ほんま、珍しいな、年内に東京雪降るやなんて」
「あ、あの、工藤はここんとこ出ずっぱりで、いつ戻るかちょっと…」
しばし呆けて窓の外を見つめていた二人だが、われにかえって良太はお茶を入れようとキッチンに向かった。
鈴木さんも銀行からまだ帰ってこない。
鴻池の件で助けてもらって以来なので、しんと静まり返ったオフィスで千雪と二人きりというのは、何やら良太には気詰まりだ。
「いや、今日は良太にちょっとな」
「へ? 俺に、何か?」
良太はキッチンから顔だけ出した。
「うん、あんなあ…」
何か言いにくいことなのだろうか、良太は眉をひそめて小首を傾げる。
と、電話が鳴った。
良太はキッチンから慌てて出てきたが、「はい、青山プロダクションです」と、少々関西訛りで千雪が応対している。
「はい、CMのタレントについてですか? 少々お待ちください」
千雪は電話を保留にすると、良太を呼んだ。
「またか」
良太は外線ボタンを押し、マニュアルのようにそのタレントはニューヨーク留学ですと答え、相手がまだ何か言っているうちにさっさと電話を切った。
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