Winter Time13

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「今みたいな電話、ようかかってくるんか?」
 千雪が聞いた。
「ええ、あのタレントを出せ、とかしつこい人もいるし、ほんと困ってて。俺は単なるピンチヒッターなのに」
 良太は言いつつ口がへの字になる。
「そうか、良太はやっぱプロデュースの仕事したいねんな?」
 念を押すようにまた千雪が尋ねた。
「はあ、できれば」
 何故千雪がそんなことを聞いて来るのかと良太は思う。
「できてるがな。でも、鴻池産業としては、こんなにCMあたったら、何かゆうてきいへんかな~」
 鴻池という言葉に良太はピクリと反応する。
「いや、代理店にもちゃんとやる気はないことは言ってありますし、例え鴻池さんがまたぐだぐだ言ってきても、きっぱりお断りしますから」
「そうか、鴻池さんはほな、あれから何も言うてきてないんやな」
 強く断言する良太に千雪は頷いた。
「ええ」
「ならええんや」
 コーヒーを飲み終えると、千雪はコートをはおる。
「ほならな、またお邪魔さしてもらうわ。コーヒーごちそうさん」
 また颯爽と雪の中に飛び出していった千雪に、良太は、「何しにきたんだ? 俺に用みたいなこと言ってたのに」とまた首を傾げる。
「やあ、いたいた、良太ちゃん!」
 入れ替わりに入ってきた、ツイードのオーバーコートが妙に似合う楽しげな声の主は案の定藤堂だった。
「雪だね~、もっとじゃんじゃん降ればホワイトクリスマスになるのにな~」
「こんにちは。今日はどうしたんですか?」
 能天気なことを言っていても、何だかこの男なら許せてしまうから不思議だ。
「いやあ、イブの前に良太ちゃんの顔を見なくっちゃと思って。今日はパンナコッタだよ」
 藤堂はマフラーをはずしながら、片方の手でケーキ屋の箱を持ち上げてみせる。
「へえ、美味そう! お茶いれますね」
 良太は今度は嬉々としてキッチンに走る。
「今日はみんな出払ってて」
「そうか、それはよかった」
「え?」
「いや、工藤さんの雷が怖いからね~」
 藤堂は茶目っ気たっぷりに肩を竦めて見せる。
「うんまいです~」
 美味しくいれたコーヒーとぷるるんなパンナコッタをスプーンで口に運ぶと、すっかり良太はご機嫌になった。
「良太ちゃんのいれたコーヒーも格別だね~」
「んなこと言って、俺、タレントやる気ないですから、パンナコッタで俺のこと懐柔はできませんよ」
 千雪に対しては良太の心の中にこだわりがあるせいだろう、未だに緊張してしまうのだが、この藤堂といる時は、何とはなしに和むのだ。
「いやいや、その話はもう良太ちゃんの固い意志と工藤さんの恐怖の雷の前に砕け散ったと、鴻池さんにちゃんとゆっといたから大丈夫」
「ほんとですかあ?」
 良太は半信半疑のまなざしを藤堂に向ける。
「この美味いパンナコッタに誓って嘘偽りはないよ」
「…ってか、パンナコッタに誓ったって食べちゃったらおしまいじゃないですか」
「ははは…とそれより、そうそう、聞こうと思っていたんだ、さっき階段下で、すんごい美人さんとすれ違ったんだけどね、あれ、いったい何者? 俺思わず見惚れてすっころびそうになっちゃったよ」
 パンナコッタをゴクリと飲み込み、そうか、藤堂らは彼の正体を知らないのだ、と良太は思い当たる。

 


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