「いかにも社長と秘書ってシチュエーションだろ」
「ほざいてろっ! 上着くしゃくしゃだし……」
しれっとふざけたことをぬかす工藤に、ぶつぶつ良太は文句を言う。
「酔っぱらって、さあ喰ってくれって顔で寝てるからだ」
「何だよ、それー!」
良太はカッとして起き上がる。
何だかわからないが、どうやら工藤はイラついて良太にあたったのだ。
「俺だけエロいみたいなこというし! ここ禁煙ですから!」
工藤はフンとせせら笑って立ち上がり、シンクまでタバコの灰を落としに行く。
それを目で追いながら、自分はみっともなく素っ裸でぼーっとしてるのに、前がはだけたズボンだけのくせに、事が終われば余裕綽々で、どっかの俳優みたいに様になっているなんてサギだ、などと良太は工藤を恨めしげに見やる。
「あ~~っ! 俺って頭腐ってるぅ……」
良太は思わず頭を掻き毟った。
「今頃気づいたのか? わかったら、今年はとにかくおとなしくしていろ。業界関係者とはこれから仕事以外極力顔を合わせるな」
いきなり行動制限のようなことを口にする工藤を良太は怪訝な顔で見た。
「え、どういうことですか?」
言われたことがイマイチ把握できない。
「さっきみたいに酔った親父に美味そうな面見せて、肩抱かれて喜んでいるからだ」
「いつ俺がそんなことしたよ!」
工藤のからかいに良太は食って掛かる。
「CMがどうしたこうしたと煩く聞いてくる連中がいるから、相手にするなと言ってるんだ」
確かに今夜もそういった質問攻めにあい、閉口していたことは事実だが。
だからといって、良太も迷惑しているのに、いくら工藤でもそんな言い方をされる覚えはない。
「美味そうな面、なんてした覚えはねーよ!」
裸で立ち上がって抗議する良太に、工藤は鼻で笑って煙を吐き出した。
「シャワー浴びてくる!」
怒ったまま、良太はバスルームに飛び込んだ。
「何だよ、んな言い方! 冗談じゃない……」
すっかり酔いは醒めてしまった。
シャワーを浴びて出てくると、そこにもう工藤の姿はなかった。
文句は言っても、いなくなればなったで、そこはかとない寂寥感に襲われる。
「俺ばっか、何で好きなんだよ! あんなクソオヤジ!……」
目頭まで熱くなる。
「…んだよっ! チクショー!」
良太は思わずタオルを絨毯の上に投げつけた。
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