「何か、すっげー寒いって聞いたぜ。ど田舎なんだろ? 山ん中の、雪が一メートルとか二メートルとか」
「げーーー、俺、やだよぉ、んなとこでライブやって、人が集まるのかよ~」
メンバーの話を小耳に挟んだ朔也は、元気の店、という言葉に引っかかった。
とっととホテルを出ようと思っていた朔也だが、ふいとメンバーを振り返り、つかつかと近づいていく。
「元気の店、って、もしかして、『伽藍』のことか?」
男でも思わずはっとするような美貌の主にいきなり聞かれて、GENKIのメンバーは一瞬面食らったようだ。
しかも、一平がサングラスの奥で睨んでいるのが朔也にもわかる。
「ご存知なんですか?」
古田が落ち着いて問い返した。
「元気って、元気のことだろ? そういや、元気とお前らのGENKIと何か関係あんのか?」
「てめぇは何で知ってんだよ、元気を」
低い声で凄みを利かせたのは一平だ。
「高校の後輩なんだよ、元気は」
「え、そうなんですか?」
古田はそれを聞くと微笑んで、口調も柔らかくなる。
クールな美貌故に一見近づき難そうな朔也だが、その口の悪さがかえって女たちはもとより人を身近に引き寄せるらしい。
「奇遇ですね。じゃ、T市の出身なんですか? 元気はもともと俺らのメンバーだったんですよ。でも、あいつ親父さん亡くなって店継ぐって帰っちまったから。頑固で、戻ってこいっつってもきやしないんで、今のとこ、曲だけ提供してもらってるんです」
「へえ、そうなのか。こないだ電話で話したとき、今年は雪、全然降ってねーって言ってたぞ。降っても二メートルなんざ積もりゃしねーから、安心しな。もっとも、クソ寒いことだけは確かだが」
また、「げ~~~」とマサがぶーたれる。
朔也は今度元気をとっちめてはかせてやろう、と密かに思う。
もとメンバーだ? そんな話ちっともしてなかったぞ、俺には。
「やつと会うのか?」
古田の背後からまた低い声が聞いてくる。
「年末、一緒にスキーするんだよ」
思い切り不機嫌そうな一平の問いに、朔也もぶっきらぼうに答える。
一平はフン、と鼻で笑い、踵を返して車が待つホテルの裏口に向う。
「なんだ、あいつ」
眉を顰める朔也に、「すみません、元気のこととなると一平、大人気ないもので」と古田が代わりに頭を下げる。
「俺らも年末、ライブあるんで、向こう行くんですよ」
「しかし、よくあんなど田舎でやるよな」
朔也も感心したように言う。
「だから、ライブはついでで、一平は元気に会いたいだけなんっすよ」
「ふーん」
「朔也、スタジオ、間に合わなくなるぞ」
西本が呼んだ。
「じゃ、まあ、がんばれや」
「はあ、どうも」
古田が人の良さそうな笑みを浮かべた。
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