雪の街3

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「彼らもT市入りするらしいな、年末に」
 スタジオに向う車の中で、西本が言った。
「頼むから、向こうで彼らと悶着起こさないでくれよ」
「何で、やつらと悶着だよ」
 ぶすくれて朔也は言い返した。
「あの、一平って、何だか朔也のことを敵対視してたじゃないか」
「知るかよ、そんなの」
「オフだからって羽目を外しすぎるな。映画決まったばっかで大事な時なんだからな」
「わぁかってるって」
「俺が行ければいいんだが……」
「冗談言うな! 真由美ちゃんとディズニーランド、楽しいオフが待ってるじゃん、あんたには」
 いつも仕事仕事で、なかなか家族サービスできない西本が、今度こそ、と妻子に約束させられたディズニーランドだ。
 それもこれも、心配性の西本は朔也から目を離せないでいる、ということが一番の理由なのだが。
「そうなんだけどな…。とにかくこうなったら、松田くんにお目付け役を頼むしかないな」
「なーんで、タカがお目付けだよ! それこそ冗談じゃねーぞ!」
 年が明けて二週目から、朔也が主演予定の映画がクランクインする。
 著名なハードボイルド作家の小説が原作だが、かなりダークな内容で、世の中の裏側で生きる捻くれた主人公が堕ちていく中で、盲目の少女の純粋な心と出会い、傷つけ合いながらも愛し合う。
 この作品は朔也の今後を決めるターニングポイントとも評されているだけに、西本もいつも以上に気合が入っているのだ。
「しかし、年末から松田くんのうちに泊めていただくんだろ?」
「てめーら、俺に隠れてこそこそ、連絡とりあってんじゃねー」
 秋ごろ、元気に電話をした時、スキーがしたい、と言い出したのは朔也だ。
 それなら、イブの頃こちらにきませんか? パーティやるんですよ。
 元気の言葉で、朔也は年末年始の予定を決めてしまい、西本にスケジュール調整させた。
 そのお陰で、西本も久しぶりの家族孝行ができることになったのだが。
「年末にTに行く?」
 それを聞いて焦ったのは松田清隆だ。
 建築設計事務所で働く松田は、一応サラリーマンであり、仕事納めは二十六日なのだ。
「せっかくイブは俺がローストビーフを作ってやろうと準備万端整えてたんだぞ!」
「作ればいいじゃん」
「お前がいないのに作ってどうすんだよ!」
 今つきあってるやついるんだけど、松田清隆ってやつ。
 高校の同級生だった清隆と近年再会し、互いの思いを確かめ合った朔也は、西本にだけ、そう伝えた。

 


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