祖父の法要のために昨年秋に家族でT市を訪れたが、一人でのんびり、しかも冬というのは二年前の三月以来だ。
大雪で列車が遅れたりなんてことはごめんだったから、わざわざ朝早い列車の指定を取った。
T市駅に着くと雪は小止みになっていたが、列車を降りた途端、寒とした空気に包まれる。
改札を通り抜けて駅を出ると、朔也はリュックをちょっと背負いなおした。
見上げれば、昼を過ぎた頃というのに鼠色の空は重く、雪がひっきりなしに落ちてくる。
鈍い太陽が申し訳のように顔を覗かせていた。
予約しておいた駅に程近いホテルにチェックインすると、財布だけジーンズのポケットに突っ込んで、朔也は町に出た。
高校時代と比べると町の景観は随分変わった。
郊外には次々と大型店舗ができ、かつて賑わいのあった市街地の中心部は観光客をターゲットにした店が増えている。
かと思うと昔はそれなりに賑わっていた通りでも今はシャッターを下ろした店がちらほらと目出つところがある。
景気の波はこんな田舎の小さな町をも飲み込んだのだ。
「うちもここ数年仕事が落ち込んで、オヤジも兄貴も結構きついってよ」
清隆もそうもらしていた。
清隆の家は町でも昔から手広く仕事をこなしていた土建屋で、今は清隆の兄が社長として頑張っているようだ。
「にしても、すんげーな、雪。まあ、降るのが当たり前か」
油断すると硬く凍りついた雪に足を取られそうになりながら、歩道横に積まれた雪を横目で見やった。
町の中心を走る通りは輪達になり、走るというよりうごめくといった有様でがたがたと車が通り過ぎる。
商店街の歩道に流れるクリスマスソングや飾り付けられたショーウインドウが、それでも少しばかり気分を和ませてくれた。
しばらく歩いて三之町の通りに曲がると、この雪にもかかわらず観光客があちこちを歩いている。
「物好きな連中……」
俺もその物好きな連中の一人か。
自分で突っ込みを入れながら、目を上げるとようやく目当ての看板が見えた。
ふーっと息をつくと、朔也は『伽藍』と書かれた看板の傍のドアを開けた。
店内は予想以上にざわめいていて、朔也は曇ったメガネで見渡すが、空いているのはカウンターの隅の席くらいだ。
レジの横のスペースには天井までも届くクリスマスツリーが飾られ、店内にはいつものバッハではなく、ジャズにアレンジされたクリスマス曲が流れていた。
「いらっしゃい。あれ、早かったんですね」
ドア口で突っ立っている朔也に気づいて、長い髪を後ろで結わえた青年がにっこりと声をかける。
「おう……なんか、混んでるな」
「どうぞ、こっちへ。あ、コート預かります」
青年は朔也をカウンターの奥の席へ促した。
岡本元気、この店のれっきとしたオーナーである。
昨今の茶髪に反発するかのように、後ろで結わえたストレートの黒髪は男にしてはもったいないくらいきれいだ。
それに劣らず振り返る端正な顔は中性的で、しかも艶めいて人を魅了する。
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