「お前、俺を相当バカにしてるな?」
「滅相もない」
また元気が綺麗な笑顔を見せる。
「そだ、スキー買うのつきあえよな」
「え、こっちで揃えるんですか?」
当たり前のように命令する朔也に元気はちょっと困ったような顔をする。
「そりゃ、お前の見立てで買えばうまくなるんじゃねー?」
「またそうゆうことを。まあ、じゃ、明日午前中に一式揃えて、午後から滑るとしますか」
小降りにはなったが、雪はまだ降り続いている。
「本気で雪かきしなけりゃだな」
「ですねー。ライブの前にドアの前だけでもやらなけりゃ」
客がまばらになったところで、朔也は元気と並んでカウンターの中の椅子に腰掛ける。
ランプ型のストーブの火は暖かそうに燃えて、人の心もほっとさせる。
「そう、ライブ。お前、バンドやってたって? 仕事でGENKIの連中と一緒になった時、やつらに聞いたんだよ。そんなことちっとも言わなかったじゃんかよ」
朔也は傍らに置いてあったギターケースを見て思い出した。
「あいつらに会ったんだ? ハハ、世間は狭いね。今夜、やるからみてくださいよ。年に一度の『昇り竜』ライブ」
「『昇り竜』ぅ? また、お前、だっせー、ドラゴンズとか言うんだろ」
「わかりました?」
「わからねーわけねーだろ。そんで、お前、ギターなの?」
「ええ。あと、ボーカルとベースが『あさくら』の若旦那、ドラムスが『丸一』の秀喜」
「『あさくら』? 朝倉正道?」
「あ、ひょっとして学年同じ?」
「三年の時、クラス一緒だった」
懐かしい名前を聞いて、朔也は笑う。
ひょうきんなやつで清隆ともよくつるんでいた。
「ごめーん、元気、遅くなってぇ」
「紀ちゃん、三十分の遅刻」
慌しく入ってきた女の子に、元気が言った。
時計はそろそろ四時になろうとしている。
「あ、このコがうちの貴重な唯一のバイトの紀子ちゃん。そこの『石井酒造』の跡取り」
元気は紀子を朔也に紹介する。
「もう、跡取りってのやめて!」
「本とのことでしょうが」
「え、どっかで会いましたっけ?」
紀子が朔也の顔を覗き込む。
「出会い頭にナンパはないだろ?」
「やめてよ、元気!」
「俺、臨時バイトの遠藤。今日はバリバリ働くんでよろしく!」
「え、ちょ…さ……」
朔也、と言いかけて、「遠藤さん」と元気は言い直す。
「ライブとパーティだろ? 人手はいるじゃん」
「バイトは頼んでありますよ」
「いいからいいから」
「えー、でも、どっかで見た気がする…」
紀子は首を傾げた。
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