わかりやすいやつ、志央は苦笑する。
「イジメられたのか?」
「いきなり、誰も口聞いてくれなくなって。机の落書きされたり、靴隠されたり、そんなたいしたことされたわけじゃないんですが、そしたら、友達だと思ってたヤツが実は先導してたんだってわかって、そっちの方がショックで。結局お袋亡くなったんで、またカナダの親父のとこに逃げ帰って…ヘヘ、親父が帰国するのについて帰ってきたのが中三の時」
「一年はY高行ってたんだろ? まさか、またイジメられたのか?」
「え…いや、まあ…その」
言いよどんで七海は立ち上がると、グン、と空に向かってのびをする。
「あー、すげー、ここから眺めると絶景」
でかい図体のわりに弱っちいから、イジメられやすいんだ、と志央はちょっと同情の目を向ける。
でも七海といると何やらのどかな気分になるのだ。
本校舎、新校舎東棟、西棟、由緒ある時計台、大学並みの蔵書を誇る図書館、体育館にクラブハウス、裏庭、裏庭から裏山に続く道筋、と歩いて案内したところを、志央はもう一度教えてやる。
「お前んち、鎌倉か、ならあっちの方だな」
志央は右を指す。
「鎌倉なら、表門に回るより、この道を降りた方が近くなるぞ」
「そうですか、じゃあ、明日からこっちを通ります」