境内に上がる階段の手前にバイクを止め、七海は街が見渡せる楓の木の下に志央を誘う。
「こないだ見つけてここでぼーっとしてたんです。公園じゃないからカップルもこないし」
眼下には街の明かりが広がっている。
顔を上げれば降るような星空だ。
「うわ、すげー…星…」
「ほんとだ」
ほうっとため息をつく。
「どうしたんですか?」
「ずっとガキの頃、家族で別荘に遊びに行った時、みんなでこんな星、見てたこともあったんだなー、なんてさ。あの頃はまだ家族があったんだ。じじいも、父親も母親も、美央もいて」
志央はフンと鼻で笑う。
「でもそんなもの簡単に壊れちまった。物心つく頃、不倫した父親を母親が家から追い出してさ。婿養子だったし。父親はそれからその不倫相手の若い教師と再婚した。母親は美央と俺を家政婦に任せて、料理研究家として独立して、料理学校作って、今やテレビや雑誌にも登場する売れっ子先生だ。美央がいなくなってから特に、うちなんか全然寄りつきゃしない」
「志央さん…」
「俺なんか、ひとり残されて、学園からだって出て行けやしない。じじいがうるさくてさ」
志央はどうしてこんなことを七海に話しているんだろうと思いながら、自嘲するように笑った。
「なーんか、ちっぽけだよな、俺なんて。お前が羨ましいよ。外から見たらちっぽけなもんだろ、日本なんて」
「そうじゃないでしょ、志央さん」
「え…?」
志央は小首を傾げて七海を見上げる。
「おじいさん、ひとりにしたくないんでしょ、ほんとは」