幸也は志央の顔を見すえてにやりと笑う。
「俺にキスしてもらおうかな」
「また、お前はそういう気色悪いことを」
志央は眉を顰める。
「俺はお前にキスするくらいかまわないぜ?」
「…………俺は携帯だけでいい!」
「遠慮するな。じゃあ、俺が先だ。次に来たやつはお前な」
余裕の幸也は窓に寄りかかって外に目をやった。
昨日の雨が嘘のように、春の空は凛と澄みきった清々しさを見せている。
午後からの今年度最初の授業を前に、暖かな陽射しに誘われて、校庭のあちらこちらに生徒たちがかたまってお昼を広げている。
女生徒の声高な笑い声がどこかから聞こえてくる。
ややあって、桜の方へやってくる人影があった。
「あー、きたきた。男だぞ。幸也、おや、可愛いじゃん?」
幸也の横で志央は声に出して教えてやる。
「え、ちょ、待て! ありゃ、堺じゃないか? 生徒会役員はパスだろ? 目一杯俺らに軽蔑ビームをくれてるやつだぞ」
日頃滅多に取り乱したりしない幸也が珍しく慌てている。
「男に二言はないよな?」
念をおす志央に、幸也は苦々しく唸る。