「甘いな、あのタラシがそうそう本気になるかよ」
とぼとぼと戻ってきた武人は、ちょうどそんな志央の台詞に眉をひそめ、勝浩に目を向けると、「お母さん、そろそろ」と裕子を促して立ち上がるところだった。
「長々とお邪魔しました」
「あ、勝っちゃん、あのさ……」
きちっと奈央に挨拶した勝浩は、あたふたしている武人に、「タケさん、来週のロクたちの健診、ちゃんとお願いします」と言い置いて、奈央の家をあとにした。
「あ~あ」
ミニを見送って武人が大きくため息をつく。
「てんでダメじゃないっすか、タケさんの秘策」
横で七海がちょっと文句をたれる。
「何だよ、秘策って、二人で何企んでんだよ?」
秘策を半分ぶち壊す手助けをしてしまったなどと思いもよらない志央は、自分が仲間はずれになっていることが面白くないらしい。
「何も別に企んだりしてませんよ」
「嘘つけ! 今言ったじゃないかよ」
「そうでしたか?」
「言った! さっさと吐け!」
「いや別に気持ち悪くはないっすけど」
「ごまかすな、こら!」
楽しげに言い争うこっちのカップルは平和だと、武人はもう一度ため息をついた。
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