「知ってる芸人から小耳に挟んだんだけど、『ナカムラプロ』って結構うちに嫌がらせっぽいことしてるみたいじゃねーか。ちょーっとバラエティの視聴率いいと思ってつけあがりやがって」
小笠原がいまいましげに舌打ちする。
「『ナカムラプロ』ってか、伊沢ってプロデューサーだよ。『明日は』の。工藤さんがまだMBCにいた頃の先輩らしいんだけど、その頃から何かっていうと工藤さんに突っかかってたって、ひとみさんの話だと」
良太は思い出して口にする。
『ナカムラプロダクション』は大物タレントや人気アイドルタレントを何人も抱えている大手だ。
一年半ほど前に始まったCBSテレビ火曜夜九時オンエアのバラエティ番組『明日はドッチだ?!』は、アイドルと若手芸人が入れ替わり立ち代り日本中に出没し、若い視聴者を巻き込んで大騒ぎする番組だが、これが昨年暮れあたりからぐんと視聴率を上げ、他社を圧倒している。
制作は通称『ナカムラプロ』系列の制作会社で、メインは抱えている人気アイドルだ。
社長の中村敬一郎は長くこの業界のトップに君臨するやり手だが、その上を行く強引さで有名なのがこの番組をプロデュースした制作会社『株式会社ナカムラ』の伊沢東吾である。
MBC出身の伊沢は数々のヒット番組を制作してきたが、ここにきてそれが爆発した感がある。
ただ、MBC時代から後輩の工藤をライバル視、いや目の仇にしているのだ。
MBCに入社した工藤がやがて頭角を現し、手掛けた番組が次々とヒットするようになると、当時常にトップを走ってきた伊沢が業績ではどうしても二番手にあまんじることになった。
工藤の入社三年目にナカムラプロに引き抜かれ、MBCを辞めて以来、のちに青山プロダクションを興した工藤に対して異常にライバル心を燃やしているというわけだ。
青山プロダクション制作、工藤プロデュースのKBCの創立記念ドラマ『大いなる旅人』は今、東洋商事、東洋証券をメインスポンサーに、志村嘉人主演でイタリアやスペインを舞台に第二弾の撮影が佳境に入っている。
先に放映された第一弾は視聴率も上々で、KBC側も六月末の放映に向けて力を入れていた。
ここにきてその裏にCBSがバラエティ番組『明日はドッチだ?!』の特番をわざとぶつけてきたらしい。
ついさっき放映予定が発表されたらしく、下柳も心配して電話をしてきた。
「はあ。さっき聞いたとこです。でも、負けませんから!」
良太は自分を鼓舞するように言った。
「企画当初は確実に高視聴率を期待されてたからな、ドラマ」
KBC側はにわかに色めき立っていると下柳は言った。
その話を聞いて良太は悔しさと腹立たしさで闘志を燃やす。
「くっそーー、ぜってー負けねえっ!」
「いっくら良太が拳を握ったところで、視聴率は視聴率だからな。『明日は』って若い連中の個人視聴率も高いしな」
さらっと言うのは小笠原だ。
『大いなる旅人』は若年層にも人気はあるが、どちらかというと視聴者の年齢層は上がる。
それぞれターゲットは違うとはいえ、『明日は』は今絶好調だ。
「工藤に知らせるか?」
「う…ん、まあ、連絡きたら一応話してみるけど、工藤さんなんか、多分、だからどうした、くらいが関の山さ」
「へえ?」
何やら含みのある表情で小笠原が良太を見やる。
工藤の反応なら、ここ何年かのつきあいからいやでもわかろうかというものだ。
殺し屋が迫ってたって、「ほっとけ」だもんな。
勿論、広報はSNSやネット予告を次々拡散させているが。
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