「良太、どうかしたか?」
いきなりドアを開けられて、良太は慌てて洗面台の湯を出すとバシャッと顔を洗う。
「何でもないです」
泣き顔を見られたのが恥ずかしくて、良太はタオルでごしごし顔をこすりながら工藤の横を通り抜けた。
寝室のベッドにふてくされて座ると、まだボトルに残っていたスパークリングワインをゴクゴクと飲む。
「ったく、男がいちいちめそめそするな」
「…っせーや…! こちとらあんたみたいにニンピニンじゃないんだ」
傍に立った工藤の言葉にカチンときた良太は開き直る。
「どうせ俺なんか…っ!」
言いかけて言葉が続かない。
ボロボロ涙が溢れてくる。
「酒飲まなくちゃならないほど、妬くような女じゃないぞ、バカ」
「どうせバカだよっ! 別に酒買うつもりじゃなかったんだよっ! ガス入りのミネラルウォーターと間違っただけだっ」
ボトルを取り上げた工藤は噴き出した。
「勝手に笑えばいいさっ! チクショ、返せよ! まだ飲むんだから」
ボトルを取ろうと伸ばした手を工藤は掴み、ボトルをナイトテーブルに置くと、「いい加減にしとけ」と、良太を引き寄せて唇を塞ぐ。
そのままベッドに折り重なって倒れ込んだ。
「…ちょ…あんた、何考えてんだよっ…」
「せっかく良太ちゃんが準備万端整えてるってのに」
「誰がっ! バカにしやがって…、第一まだ陽が高いだろっ!」
「夏に陽が沈むのなんか待ってたら何もできなくなる」
ああ言えばこう言うでするりとバスローブを脱がせると、工藤は四肢を絡めて抑えつけた。
色を湛えた視線に晒されて、良太の肌はあっけなく発熱する。
昨夜の今で、良太の体がかわいそうだという気持ちはあったが、その吐息が甘く掠れるようになると、工藤は良太の熱さの中に入っていく。
「くど…う………!」
ゆっくり追い上げて、すがりつくように良太が泣く声を聞くのがたまらない。
良太の熱は正直で工藤を捕らえて離さない。
良太は工藤の与える愉悦の波にまんまと溺れてしまった。
八時に予約をしていたホテルのレストランに約十分ほど遅れて二人はやってきた。
工藤は良太の体を気遣い、キャンセルするか、と提案したが、良太はガンとして行くと言い張った。
実際、工藤に起こされる六時半まで再びぐっすり眠った良太だが、体はだるいし頭が覚めていない。
スーツを着るのがちょっとわずらわしくもあった。
食事は美味しかったが、お二人にマダム・ベルディ様からです、とワインが届けられた時は、二人とも手が止まった。
「誰だって?」
「マダム・ベルディです。こちらにカードもございます」
工藤は渡されたカードを開くと、ちっと舌打ちする。
「お二人の甘い夜のために」などと日本語で書かれたカードにはルクレツィアのサインがある。
「ふざけやがって」
「誰からなんですか? それ」
ポケットにねじ込むのを見た良太は、すかさず問い詰める。
「ルクレツィアだ。…ったく」
見せるまでは、という良太の視線に、仕方なく渡す。
「何、これ」
見るなり、良太の頬に赤みがさす。
「からかってんだよ。俺たちを」
届けられたワインはやや甘口ながら、結構美味かった。
「だからお前がいちいち妬かなくてもいいんだぞ?」
工藤はニヤニヤ笑う。
「ぜってえ信じない!」
などと言いつつもまだ熱の引かない良太には、そんな工藤のセリフが甘いワインよりさらに甘く響くのだから始末におえない。
終ってるよ~、俺…
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