幻月32

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 谷川は灯りの洩れている部屋の外へと回り、啓の仲間の一人将太と合流した。
「女の子と男、二人だけだ」
 将太が言った。
「女の子を男から離して、男を確保しよう。ちょっと待ってくれ」
 谷川は良太の携帯を呼び出した。
「直子さんを見つけた。彼女と連絡を取る術はないか? 男を何かで逆側からおびき寄せて彼女から引き離して、そのすきに窓側から彼女を奪還する。リビングは掃き出し窓、ってか床まである窓だから」
「うーん、携帯鳴らしてみます。マナーモードにしてると思うけど、バイブになってたら」
「じゃ、五分後に鳴らしてみてくれ」
 谷川は良太にそういうと、今度は将太に向き直る。
「君は今から向こう側に回って何か物音をさせて男をひきつけてくれ」
「わかった」
 将太は頷いて音を立てずに消えた。
 谷川は注意深く中の様子を見守った。
 出水が銃のような武器を所持していたらまずいだろう。
 やがて、将太が向こう側で大きな物音をたてた。
 出水が立ち上がってそっちの方へ向かった。
 直子も立ち上がったが、どうやら良太からの電話に気づいたらしい。
 谷川は直子がスカートをまくり上げて携帯を取り出した時は、思わず目を覆いたくなったが、彼女は冷静だった。
「窓から逃げて!」
 良太の声に、直子は窓へと走った。
 既に戻ってこようとしていた出水が気づいたが、直子は窓の鍵を開け谷川がその腕を引っ張って逃がすと、やって来た出水の前に立ちはだかった。
「観念するんだな。もう周りは取り囲まれてるぞ!」
 刑事の顔で谷川は出水に凄んだ。
「貴様、デカか!」
 出水はポケットからナイフを取り出して、谷川に向かってきた。
 出水がむやみやたらに振り回すフォールディングナイフを谷川は咄嗟に避け、隙を見てその腕をぐいと掴んで引くと、もう片方の手で出水の顎を捉え、谷川の脚を払って床に倒して気絶させた。
「さすが、お見事。いや、俺の出る幕はなかったみたいですね」
 谷川が振り返ると、藤堂が立っていた。
 その藤堂にしがみつくようにして直子が顔を見せ、恐る恐る出水を見下ろした。
「大丈夫かい?」
 谷川が直子に聞いた。
「はい、何とか」
「しかし果敢な真似をしたね。驚いたよ。肝が縮んだ。」
 谷川に言われると、直子は消え入るような声で、「すみません」と恐縮した。
「ロープを用意してきました。キャンプ用のやつ」
 藤堂は手にしていたロープで出水の腕を縛るとまた床に転がした。
 そこへ京助や辻が啓と仲間の淳史が縛りあげた木戸を連れて現れた。
 後ろからグローブをはめた千雪が買い物用ビニール袋に何かを入れて持ってきた。
「証拠品」
 木戸は誰にどれだけ殴られたのかわからないが、頬は腫れあがっている。
 ただ疲れ切って言葉も出ない様子だった。
「ひどいな、それけん引用のロープ?」
 藤堂が誰にとも言わず尋ねた。
「うっかりして、これしか車になくて」
 京助が言った。
「こいつ田口がやったって吐いたぜ。とっとと警察に引き渡すぞ」
 携帯に木戸の吐き出した言葉を京助は録音していた。
「さっき、捜査一課の渋谷さんに、真犯人捕まえたよってはよ来いて知らせときました。ついでにもう一人、死体が埋まっとるて言うたらでかい声で驚いてましたわ」
 千雪はビニール袋をあまり触りたくないという顔で遠ざけたまま、そう言った。
「そりゃ、手際がいい」
 谷川が苦笑した。
「それから、田口と友成が高跳びするか知れんても言うときました。さっき田口張ってた遠野さんから連絡あって」
 良太も千雪から男らを捕まえたからもう来てもいいという連絡を受けて、開け放たれたリビングに現れた。
「良太ちゃん!」
 顔を見るなり直子に抱きつかれて良太も思わずぐっと抱きしめた。
「よかった………」
 それしか言葉がない。
 ただ、ここにいる良太以外の面々が知らないことが一つあった。
 連絡係を仰せつかった良太は一人車で待っていたが、後ろのドアが開いたような気がして振り返ると、そこにいつの間にか座っていた男を見て驚いた。
「まったく、あれほど君は動くなと言っておいたのに」
 波多野は淡々と口にした。
「別に、何もしてませんよ、俺は。千雪さんにもここにいろって言われたし」
 良太は波多野を少し睨み付けて反論した。
「まあ、思った以上の働きで、どうやら実行犯は皆さんが捕まえてくださったようだし、証拠も見つかったらしいから、やつらがあらいざらい吐いてくれれば、工藤さんは出てこられるでしょう。ただ……」
 波多野は少し眉を顰めた。

 


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