藤堂のぬくもりが恋しくて。
「待てといってるだろ!」
藤堂は悠に追いついて、後ろ首を掴んで引き寄せ、振り向かせる。
「何しやがんだ! てめー」
「ひとこと、言わせてもらったら、消える」
凄みを効かせて藤堂は悠を見下ろした。
「…ひとことだけしか、聞かねーぞ」
悠は思わず目をそらす。
「俺には遊びのつもりなんかこれっぽっちもないぞ」
「何…言ってやがる! あの美香って女とつき合ってるくせに!」
「誤解だ。美香とは仕事でしか会ってないし、つき合ったことなんかさらさらない!」
目を剥いてくってかかる悠に、藤堂は慌てて言い募る。
「ほんとはマミって女に惚れてたけど振られたってことも、ちゃんとあの、さやかって女に聞いてんだよ!」
「何だって? さやかのやつぅ!!」
今度会ったらただじゃおかない! 藤堂は舌打ちして、また歩き出そうとする悠に追いすがり、後ろから悠を抱きしめた。
「さやかなんかの言うことをまともに聞くな。俺が今一番大事なのは君だ」
「いい加減なことぬかすな!」
「いい加減なもんか。この俺が、大好きな仕事をほっぽり出してきたんだぞ」
途端、悠は膝からくずおれる。
どうにも堪えきれずに涙が零れ落ちた。
「帰ろ…な? 悠ちゃん」
藤堂はしっかり抱きしめて、優しくささやいた。
「アイちゃんもお前がいないと寂しがってる」
悠は言葉もなく、ただ、頷いた。
藤堂と悠が新しいマンションに引っ越したのは忙しない十二月下旬のことだった。
たまたまオフィス近くの新築マンションに広いルーフバルコニーのある部屋がキャンセルになったと聞きつけ、藤堂は即手に入れたのだ。
「天井が高いのがいいな。うん」
河崎の住むマンションは外国人向けで天井が高いことを、藤堂は密かに羨んでいたのだが、このマンションは欧米人も住むことになっており、普通のマンションより天井が高くなっている。
玄関にはアイちゃんを描いた絵が、三十畳ほどあるリビングの一角には藤堂とアイちゃんが描かれた一五〇号、寝室や書斎にもそれぞれいくつかの絵が飾ってあって、ちょっとした美術館のようだ。
ルーフバルコニーのある二十畳の部屋は、悠のアトリエになった。
卒業制作には海のシリーズから提出するように、という飯倉からの伝言を、悠は数日前に部屋を訪れた高津から受け取っていた。
アトリエがあるという藤堂の誘惑に負けて、この新しい部屋に同居することになったと悠が高津に言うと、「そうか、ついに、おっさんの手に堕ちたのか」などとオーバーアクションで悠を抱きしめた。
「そういや、サンタって、何だよ? オープニングの時も直って女が言ってたけど」
夜、仕事から帰ってきた藤堂に、悠は気になっていたことを尋ねた。
「イブにパーティをやるのさ。で、俺がサンタさん!」
得意げに宣言する藤堂を見て、悠は脱力する。
「……あんたの、やりそうなことだよ」
「でもたまには、サンタにもプレゼントがあたるらしい」
「?ああ?」
「悠ちゃんが当たった」
いきなり抱きしめられて、悠は一瞬硬直する。
「ざけんじゃねー! だいたい、あんた、まだ使えるってのに、家具一式買い換えやがって!」
今度はジタバタと悠は藤堂の腕の中で暴れ出した。
「あれはちゃんとリサイクル業者が引き取ってくれただろ」
「そういう問題じゃない!」
いや、怒っている悠も何かメチャ可愛い。
うん、とりあえず今度のイブは最高にハッピーな夜になりそうだ。
藤堂は満足げに笑った。
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