風そよぐ12

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 ビールを飲み干した時、携帯が鳴った。
「何だよ。今日の四のイチってらしくないじゃん」
 相手は沢村だった。
 関西タイガースの四番は、リトルリーグの頃から良太のライバル、腐れ縁、悪友でもある。
 今日はホームゲームで、親戚に別荘を借りてホームの拠点にしているとかで神戸にいるはずだ。
「また、何か厄介ごととかじゃないだろうな」
 せっかくお悩み相談室閉鎖状態なのに。
「るせぇな、ほんの、たまーに、んなこともあるんだよ!」
 別に厄介ごとがあるわけでもなさそうだが、要は、恋人の佐々木が忙しくて会えない状態が続いているのだろう、そういう時、佐々木に電話できないものだから、沢村は箸休めみたいに良太のところに電話をしてくるのだ。
「そういや、またプラグインと仕事やるんだって?」
 どうやら佐々木に聞きだしたのだろう。
 レッドデータのスポンサーである東洋商事のCFで、やはりプラグインは佐々木に依頼したのだが、そろそろ撮影に入る予定となっている。
「そうそう。佐々木さんも、俺も! 今忙しいの」
「わぁかってる。なんか、去年またタイトル取ってからファンからレターとかモノとかわんさか球団の方に届いてるらしくて、どうしようって俺に言ってくるから、レター以外はそっちで何とかしてくれっての」
「らしくてって、お前な……」
 溜息も出ようというものだ。
 いつぞやMTBのテレビ局で最近バラエティ担当になったプロデューサーと会った時、何とか沢村に番組に出てもらう方法はないかと良太は泣きつかれた。
 良太が関わっている『パワスポ』だけは出てくれるのだが、それが良太と沢村が子供の頃からのライバルで、なんてことが最近他局の制作陣にまで知られているのだ。
 だが、残念ながら特別何かない限り、沢村がそういう番組に出るとは思えない。
 オフシーズンなら、球団主催のイベントなどには無理にでも顔を出さざるを得ないようだが。
 これで今度制作予定のアディノのCMが流れ始めた日には、スポーツ以外のニュースショーなどでもまた騒がれること必須だ。
 一方、スポーツ番組の方では、評論家の大先生たちに、沢村は人気に胡坐をかいているから打率が落ちるのだなどと早速こき下ろされていた。
 打率にしても、さっき沢村自身が言ったように、多少の上がり下がりはあるはずで、わかっているだろうにたまに打率が降下すると鬼の首を取ったかのように文句をぶちまける。
 あれはかなり嫉妬の要素が含まれているんだろうと、良太は認識している。
「プレゼントとかはまあ、仕方ないとして、レターくらいは少しは読んでるんだろうな?」
「たまーにな。ピンクやハート付きの封筒なんかゴミ箱行きだ」
「お前、それ、インタビューとかでぜってぇ言うなよ! レターは大切に読ませてもらってます、たくさんのプレゼントをありがとう、くらいたまには言っておけ!」
「ゲーノー人じゃあるまいし、何でそんなウソっぱち言わなけりゃならねんだ」
 それは良太にもわからないでもないが。
「プロスポーツ選手だって、サポーターやファンあってこそだろうが! プレゼント云々は置いといても、忙しいんでレターも全部は読めないがいつもありがとうございます、くらいは言えるだろう! 少なくとも嘘八百じゃない!」
 すると、沢村は、あーあ、と前おいて、
「直球良太も、業界の波にのまれて、心も歪んできちまったかあ」
「このやろ! そんなの社会常識っつうもんだろうが! 直球はわかってるやつだけでいいんだよ!」
 とはいうものの、時々、面倒な相手に直球でものを言ったがためにことを荒げてしまうなんてこともやらかしている良太なのだが。
 くだらないことをしばし話してから、沢村は電話を切った。
 まあ、佐々木との間に波風がたったとかじゃないらしいから、よしとするか。
「沢村、ほんっと、あいつ、お友達いないんだな、俺にわざわざ電話してくるとか」
 まあ、あの性格じゃな。
 そういえば、沢村、佐々木さんの土地買ってそこにうち建てるとか言ってたけど、結局どうなったんだろう。
 まだ佐々木さんに言ってないのか。
 いずれにしても先のことになるだろうけど。
 佐々木さんと沢村、このままうまくいけばいいよな。
「また沢村に泣きついてこられたって、こっちが困るんだよっ!」
 羨ましさ半分で、良太は思わず喚いた。
 するとそれを聞きつけたナータンが何ごとかと思ったらしく、ナーンとないた。

 


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