風そよぐ14

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「いいな、広瀬さん、工藤さんと一緒にいられて羨ましいです」
 う、と本谷の思いをまともに聞いて良太は言葉をなくす。
「は? へ、いや、あの、工藤なんて、オフィスにいればいたでさんざんっぱら怒鳴り散らすし、無理難題平気で押し付けるし、この仕事だって、いない時はお前が何とかしろとか、丸投げですよ丸投げ! ほんと冗談じゃないクソオヤジなんですから」
 良太はそれこそ、さんざんっぱら工藤の悪口雑言を捲し立てた。
「でもそれって、広瀬さんを信頼してるってことでしょ? どうせなら俺、青山プロダクションに入りたかったな……」
「え、いや、あの………」
 言葉がストレートなだけ、本谷の本気度が増している気がした。
「えっと、工藤、明後日には京都から戻るから、そのうちまたスタジオにも顔出すんじゃないかな」
 口にしてから、おい、俺、何言ってんだよ! と良太は一人突っ込みをする。
「あ、じゃあ、俺はこの辺で。打ち合わせ、連絡しますね」
 これ以上何だかいたたまれず、良太は早々にスタジオを後にした。
 出る時、案外近くにいたアスカが何やらもの言いたげな顔をしたが、そのまま駐車場へと向かう。
 ったく、どうしろっってんだよ!
 自分だけ本谷の思いを知っているのが、何だか反則技のような気がして、しっくりこないまま、良太はジャガーのエンジンをかけた。

 工藤は京都から戻ってきても、局やスタジオ、スポンサーとの会食や接待と、相も変わらずデスクにふんぞり返ることなく動いていたし、良太は良太で、レッドデータの制作で時間を取られ、なおかつメインスポンサーである東洋商事のCMの進行、加えて『パワスポ』と、いつものように工藤の送り迎えまでは手が回らない状況だった。
「『田園』の方は時々顔を出してくれ。俺も時間があれば覗く。あとはよほどのことがない限り俺の判断を待つ必要はない」
 そうのたまうと、良太の返事を背中に聞いて工藤はさっさと出かけてしまった。
 へえへえ、俺に丸投げするから適当にやれってことね。
 良太は心の中で憎まれ口をたたく。
 海外にいても日本にいても、どうやら工藤は東奔西走するのが当たり前らしく、結局良太はジャガーを、工藤はベンツを使ってそれぞれ別に移動することになった。
 工藤が出かけると、良太もオフィスを出た。
 東洋商事のCM打ち合わせには代理店プラグインの藤堂と良太、それにクリエイターの佐々木、加えて音楽を担当するロックバンド『ドラゴンテイル』のボーカル、水野あきらの四人が出向くことになっている。
 良太が車でプラグインに寄り、藤堂と佐々木を乗せて、大企業の本社ビルが立ち並ぶ日本橋へとハンドルを切った。
 水野あきらとは現地で落ち合うことになっていた。
「なんか、良太ちゃん、やつれてへん?」
 後ろに座った佐々木が声をかけた。
「わかります? はあ、うちは万年人手不足ですからね。ここんとこ、工藤も俺もそれぞれの車で動いてるんですよ。工藤の顔なんかオフィスでろくにみたことないくらい」
「ああ、ヤギさんとスタジオに籠って、ひたすら画面を追ってるって?」
 藤堂が言った。
「はあ。それだけじゃなく、『田園』の方も工藤がいない時はほぼ俺に丸投げ状態」
 藤堂も佐々木も、無理しないように、と良太に憐憫の視線を向けてくれた。
「あ、良太ちゃん、久しぶり!」
 東洋商事本社ビルのだだっ広いロビーで三人を待っていた水野はにっこり笑って声をかけてきた。
「水野さん、今日はよろしくお願いします」
「どう? おかしくない? スーツとか持ってないから一応ジャケット着てきたんだけど、ほら、お偉いさんと会議だって聞いたから」
 今日は黒い皮のパンツとタンクトップに、黒のジャケットを羽織っている。
 化粧っけはないが、整った顔立ちで、やはりそこは人気アーティストの只者じゃないぞオーラを放っている。
「かっこよく決まってます」
 良太が言うと、「またまた」と水野は良太の背中をバシンと叩く。
「こちらクリエイターの佐々木さんと代理店プラグインの藤堂さんです」
 水野に二人を紹介すると、水野が、あ、と佐々木を見て、
「ひょっとして天パーでしょ? 天パー同士、よろしく!」
 と懐っこそうな笑顔を向けた。
「ええ、こちらこそよろしく」
 佐々木も笑みを浮かべて水野を見た。
「え、あ、関西なんだ? ってか、え、ごめん、いえ、失礼、男の方?」
 ここでもどこかで聞いたような対応をされて佐々木は苦笑する。
「どうりで背が高いと思った」
「関西はどちら?」
 水野は佐々木が気に入ったのだろう、二人で肩を並べてエレベーターへと向かう。
「水野あきらってさ、結構不愛想って聞いたけど、何、良太ちゃんにかかるとみんなフレンドリーに豹変するわけ?」
 二人の後ろから歩きながら、こそっと藤堂が良太に耳打ちした。
「いえ、うちの工藤とか、下柳さんとか、あと山内ひとみさんとかとは古い友人関係らしくて、お陰で話もスムースに」
「あっそう。でもそれだけじゃないよね、やっぱ良太ちゃんの人徳だよ、うん」
 良太の説明にも藤堂は勝手にそう結論づけてしまった。

 


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